コント:ポール君とグレッグ君(2011年第8弾)

以前、投資とGDPの因果関係を巡ってマンキューがクルーグマンを批判したが、今回も概ね同様の話の流れになっている。

ポール君
皆がロバート・バローの論説をどう思うかと訊くので、とうとう読んでみたが、その議論の怠慢ぶりにショックを受けたと言わざるを得ないね。だって議論の筋道を立てようとさえしていないのだもの。つまり、こんな感じの展開だ:
  1. ケインズは投資が景気循環を駆動すると述べた。
  2. 投資は長期のインセンティブに依存する。
  3. ???
  4. 緊縮策だ!
第一項については、確かにケインズは総需要の変動は通常は投資によって駆動されると論じた。しかし同時に彼は不況期の拡張的財政政策を好んだ。というのは、その話は通常起きることの話であって、必ずそうなるという話では無いからだ。パンクしたタイヤは、別に空いた穴から空気を入れねばならないわけではない。バローは本当にそれが分かっていないのかね、それとも読者を言いくるめようとしているのかね?
第二項については、単なる間違いだ。データをちょっと見てみただけでそのことは分かる。非住宅固定資本投資のGDP比を見ると、それが景気循環に強い影響を受けていることがすぐに読み取れる。需要が強く、企業に設備を拡張する理由が十分にある時に投資も高まるのだ。というわけで、投資を促すには、何が何でも景気を回復させるのが最善の策となる。それには財政刺激策も含まれる。
で、ショックを受けたという話に戻ろう。僕はバローがリアルビジネスサイクル理論か何か最近彼が信じているマクロ経済学に基づく議論をしているのかと思った。ところが、彼は言葉遊びや無関係な話をしているだけだった。
そもそも何で彼はわざわざそんな論説を書こうと思ったのだろう?

  


グレッグ君
ポール君のロバート君批判は良く分からんね。ポール君は投資の対GDP比率が景気に連動することを示すグラフを提示して、それによって経済の苦境の原因に関するロバート君の見解が否定されたかのように書いている。しかし、その事実は珍しくも何とも無い。最近僕が書いたように、「景気循環の過程で最も変動の大きなGDPの項目は、投資財への支出だ」。しかも、僕はロバート君とおよそ四半世紀も同僚だったから良く知っているが、彼はマクロ経済の時系列データを誰よりも知悉している。
ポール君が口を拭っているのは、相関関係は因果関係を意味しない、という問題だ。ポール君は、図に示された相関により景気循環が投資支出を駆動することが確認された、という結論に一足飛びに飛んでいるように見える。しかし、その逆も十分にあり得る(もしくは第三の要因が両者を動かしているのかもしれない)。なぜこのグラフが何かの確認になるとポール君が思ったのか、本当に分からない。
序に言っておくと、ロバート君は存命の経済学者の中で2番目に被引用回数が多い。それによって彼が言うことは何でも正しいことになるわけではないが(実際ハーバードのセミナーでロバート君と僕は良く意見が食い違う)、彼の見解を性急に退けるべきではないということにはなるだろう。