仕送りと為替政策の関係

MIT newsに5/5付けで面白い記事が掲載されている。内容は、デビッド・アンドリュー・シンガー(David Andrew Singer)という准教授が行なった研究で、海外への出稼ぎ労働者の送金が、その母国の為替政策に影響を与える、というもの。


シンガーの研究結果は、彼の論文の次の図に集約される。


即ち、送金がGDPに占める割合が高いほど、その国は固定為替相場を取る可能性が高まるという。


上の図は推計モデルを用いた結果だが、その元データ(世銀の74ヶ国の過去30年のデータ)の集計によると、固定相場制の国の対GDP送金比率の平均が7.9%だったのに対し、変動相場制の同比率は3.5%だったとのことである。


もちろん、統計分析につきものの課題として、因果関係と相関関係の問題がある。上記の関係も、為替相場が固定されているほど送金が多くなる、と解釈する余地がある。これについてシンガーは、以下の点を挙げて、因果関係はあくまでも送金から為替相場制度である、と主張する。

  • 開発途上国から先進工業国への移住パターンと為替制度との対応関係は見られない。
  • 移住者の行動に関する調査データを見ても、母国が変動相場ならば送金を少なくするという傾向は見られない。移住者はどちらかというと「家族のように」行動し、「金融投資家のような」行動は取らない。

この第二点を表す事例として記事中に挙げられているのは、2009年11月のフィリピンへの送金が前年同月に比べて11%も増加したという現象である。この時フィリピンは2つの台風に襲われ、苦境に陥っていた。
このように国の経済状況が良くないときにむしろ流入資金が増加するという反景気循環的な傾向は、金融政策の助けとなる、とシンガーは指摘する。というのは、海外からの投資資金を引きつけるために固定相場制を取っている場合、経済が低迷した時には金融緩和の余地が限られてしまうが、そうした反景気循環的な送金が、金融政策の代わりに民間経済に流動性を提供してくれるからである。しかもその送金は、融資と違って紐付きではない。


ただ、中央銀行家たちはそうした送金が為替制度決定の背後にあるとは認めたがらない、ともシンガーは述べている。その理由は、もしそれを認めてしまうと、送金が減少した時に為替の安定性に影響が出てしまうからだろう、と彼は推測する。



なお、記事の冒頭では、今日の世界経済における送金の重要性を示すため、以下のような数値が挙げられている。