株価崩壊が中国経済の破綻を意味しない理由

本石町日記さんもツイートされているが、スティーブン・ローチが表題のSlate記事で中国経済に対する楽観論を述べている(原題は「Why the Stock Meltdown Doesn’t Spell Doom for China」;H/T Economist's View)。ローチに言わせれば、西側は中国経済を西側経済の色眼鏡で見ているため、過度に悲観的になっているという。実際には中国経済は以下の点で西側経済と大きく異なっているため、悲観的になる必要は無いとの由。

  • 消費はGDPの36%と米国の半分の比率に過ぎないため、逆資産効果は働かず、株式バブルの崩壊の影響は限定的。家計部門が未だ未発達で、米国であったような家計のデット・オーバーハングも無いため、日米で見られたようなバランスシート不況は起きない。
  • 投資がGDPの50%に達するという悪名高い投資バブルも心配には及ばない。理由は2つ:
    • 中国では、2000年以降、都市人口が毎年二千万人増加している。これは、住居やインフラの観点からすると、ニューヨークが毎年2.5個付け加わることに相当し、こうした前例の無い都市化の勢いは少なくとも2030年まで続く見通し。
    • 文革の後遺症もあり、中国の労働者あたりの資本ストックは日米の15%以下に過ぎず、経済発展のためにはその引き上げが必須。そのために高い投資が継続することを必要としている。
  • GDPの250%になる企業の債務も、大部分が銀行融資。債券市場は他国に比べて相対的に未だ小さく、バブルになりやすい株式市場も資金調達の場たり得ない。金融市場が未発達なこと、中国政府が金融危機の影響を遮断しようとしたことが、銀行融資への傾斜を高めている。
    • 中国政府は、地方政府や国が所有する企業のデレバレッジを進めており、それが今の経済減速をもたらしている。その試みは成功の兆しを見せており、名目成長率の高さを考えれば、数年後には債務比率は急低下しているだろう。中国は次の日本でも次のギリシャでもない。
  • 中国の課題は、製造業が主導する輸出と投資に依存する経済からサービスと消費者が主体となる経済への転換。それについては、以下の3つの楽観的な材料がある:
    • サービス部門の発達は想定より早い。2014年のサービス部門はGDPの48%であり、製造業と建設業を合わせた43%を超えている。サービス部門は、中国の他の非農業部門に比べ、一生産単位当たりで職を3割余計に必要とするため、GDP成長が減速しても失業や社会不安の懸念は小さい。
    • eコマースの発達が、消費の成長を大いに早めている。ベイン・アンド・カンパニーによると、2009年以降、中国のeコマースは年率7割以上伸びており、2013年にはデジタル市場は米国を超えた。
    • 都市化の進行。1980年には20%以下だった中国の都市人口比率は、2014年には55%に達した。OECD予測では2030年には69%になる見込み。都市の労働者の実質所得が地方の労働者の約3倍であることから、実質所得の上昇が見込まれるほか、輸送、通信、公益事業、および卸売・小売業など新たなサービスの発展も見込まれる。
      • 60ミニッツなどでゴーストタウン(鬼城)として報じられた鄭州の一角も、今やすべて埋まっている。都市化が地方からの移住者の後追いとなっているインドの都市の未整備な状況とは対照的に、中国では積極的な都市開発が移住に先行している。


中国経済は、西側経済の症状と共通した点が数多くあるものの、発展段階においては大きく異なっており、世界の他のどの地域よりも成長の可能性を秘めている、と述べてローチはこの論説を締め括っている。