日本経済の苦境は生産性向上に頼ったせい?

23日エントリでは、タイラー・コーエンが資本減耗をネタに日本経済について言及していたことを紹介した*1。そのコーエンが今度は、「日本の経済の減速は何によってもたらされたのか?(Where does the Japanese slowdown come from?)」と題したエントリで、キール世界経済研究所(IFW;Kiel Institute for the World Economy)のChris Reicherが書いたワーキングペーパーを紹介している。その論文でReicherは、日銀出身のフィラデルフィア連銀のエコノミスト藤田茂氏*2とUCSDのGarey Rameyとの共著論文で示された手法に基づき、各国の労働生産性を以下のように要因分解している。

  Δ log(Y / N) = Δ log(Y / H) + Δ log(H / E) + Δ log(E / LF) + Δ log(LF / N).

(Yが生産、Nが15-64歳の生産年齢人口、Hが労働時間、Eが就業者数、LFが労働力人口


論文で示された結果をグラフ化してみると以下のようになる。


この結果についてコーエンは論文の以下の文章を引用している。

In the United States, productivity only contributes about 27% of the cycle and labor input four-fifths. Meanwhile, in France and Germany, productivity contributes 43% and 38% of the cycle, respectively. Japan is more European than Europe in this regard; productivity contributes 59% of the cycle there, while Korea looks more like the United States.
(拙訳)
米国では、生産性は循環的変動に27%しか寄与しておらず、労働投入が8割程度*3である。一方、フランスとドイツでは、生産性はそれぞれ循環的変動に43%と38%寄与している。この点で日本は欧州より欧州的で、生産性の循環的変動への寄与度は59%である。その半面、韓国は米国により近い。


また、コーエンは、今回の一連のブログエントリに関するReicherの以下のコメントも紹介している。

I think that Karl Smith is right about Japan’s productivity performance; that seems to be the real long-term issue there. Shrinking population + no more convergence in productivity + some convergence in hours worked per worker from a very high level = very slow growth, independently from the business cycle.”
(拙訳)
日本の生産性のパフォーマンスについてのカール・スミスの意見は正しいと思う。実体経済の長期的な問題が存在しているようだ。減少する人口+生産性の収斂がもはや起きないこと+高い水準にあった一人当たり労働時間がある水準に収斂=極めて遅い成長、という方程式が景気循環とは独立に成立しているようだ。


コーエン自身は、この論文に絡めて、なぜ大停滞が最初に日本を襲ったのか、というイグレシアスの問いについて以下のようにコメントしている。

That’s hardly an answer, but it suggests the Japanese economy was more dependent on productivity gains in the first place. As those gains start to slow down or dry up, it bites harder and more quickly.
(拙訳)
これぞ問題の回答、というわけにはいかないが、日本経済がそもそも他の経済に比べて生産性利得に頼っていたことを論文は示唆している。そうした利得が減速ないし枯渇し始めたとき、その悪影響は厳しく急速なものとなる。

*1:ちなみにこのコーエンのエントリを受けて、サムナーも日本をテーマにしたエントリを立てている(コメント欄ではH_WASSHOIさんが厚生労働省の資料を引きながら、今回の地震により被災地で失われた雇用とほぼ同じ分がそれ以外の地域で増加しているという興味深い事実を指摘されている)。また、コーエンのエントリと同じ日にマシュー・イグレシアスも日本の失業率に関するエントリを立て、カール・スミスがそれに反応した。そしてサムナーとスミスのエントリを受けて、コーエンがまた日本に関するエントリを立てた。さらに、それらのエントリで提起された日本の失業率の疑問についてノアピニオン氏が回答を提示している

*2:漢字表記はこのサイトに依った。

*3:正確には7割強。