職のある失業、職の無い失業

タイラー・コーエンが、不況からの回復には金融政策だけでは限界があり、ある時点からは実体経済要因で話が決まる、という主張を7/8MRエントリで展開している。本ブログの6/13エントリで紹介した彼の議論の続きのような話だが、今回のエントリでも最近お気に入りのMarianna Kudylakの表題の論文を援用している。論文の原題は「The Unemployed with Jobs and without Jobs」で、著者はRobert E. Hall(スタンフォード大)、Marianna Kudlyak(SF連銀)。以下はその要旨。

Potential workers are classified as unemployed if they seek work but are not working. The unemployed population contains two groups---those with jobs and those without jobs. Those with jobs are on furlough or temporary layoff. This group expanded tremendously in April 2020. They wait out periods of non-work with the understanding that their jobs still exist and that they will be recalled. We show that the resulting temporary-layoff unemployment dissipates quickly following a spike. Potential workers without jobs constitute what we call jobless unemployment. Shocks that elevate jobless unemployment have much more persistent effects. Historical major adverse shocks, such as the financial crisis in 2008, created mostly jobless unemployment and consequently caused extended periods of elevated unemployment. The pandemic of 2020 created a large volume of temporary-layoff unemployment, mostly starting in April. It was mostly dissipated by the end of 2020. It also created a bulge in jobless unemployment.
(拙訳)
働ける人は、職探しをしていても働いていないと失業者に分類される。失業人口には2つのグループがある――職を持っている人と職を持っていない人である。職を持っている人は休業もしくは一時解雇の状態にある。このグループは2020年4月に大きく増加した。彼らは、職はまだ存在しており、いずれ復帰の声が掛かるであろうという理解の下で、働かない期間を待機して過ごす。そうした一時解雇の失業は、急増した後に急速に解消したことを我々は示す。職を持たない働ける人は、我々が無職失業と呼ぶものを構成する。無職失業を増加させるショックは、より恒久的な影響がある。2008年の金融危機のような過去の大きな悪しきショックは、主に無職失業をもたらし、失業が高まった状態はその後長く続いた。2020年のパンデミックは、大半が4月から始まった多くの一時解雇失業をもたらした。それは2020年末までに概ね解消したが、無職失業の増加にも寄与した。

コーエンは、現在の雇用の回復がこれほど速い理由の説明としてホールにこの論文を紹介されたとの由。ただ、この論文で失業の種類の決定要因とされているのは、コーエンのZMP仮説に代表されるような労働市場における労働者側の供給要因ではなく、労働者の解雇を一時的と恒久的のいずれにするか、という雇用者側の需要要因であるように思われ、必ずしもコーエンの主張を支持していないようにも思われる。コーエンは金融政策は需要喚起策としては無効と言いたいのかもしれないが、この論文では金融政策との関連には触れていないので、この論文を自説に援用するのはやや筋違いのように見える。
コーエンはまた、同じエントリで、製造業の長期的な低落傾向が不況の深刻さと長さの最も大きな決定要因になっており、製造業の割合の高い州ほど不況は深刻化する、という主旨のEdward E. Leamer(UCLA)のNBER論文「Why Are Some Recoveries Short and Others Long?」も援用している。こちらはむしろサマーズの長期停滞論と符合する研究のように思われるが、サマーズ自身は金融政策の実体経済への影響を積極的に評価している。その点からすると、こちらの論文もやはりコーエンの主張の裏付けにはなっていないようにも思われる。