株価は人口で説明できる?

という主旨のレポートをサンフランシスコ連銀が出しているMostly EconomicsFree exchange経由;著者はZheng LiuとMark M. Spiegel)。


そこでは、ベビーブーマー世代の引退が株価に与える悪影響を調べるため、中年世代(40-49歳)と老年世代(60-69歳)の比率(彼らはM/O比率と称している)を計算し、PERとの関係を描画している。その結果は、下図の通り。

ベビーブーマーが働き盛りかつ資産形成に励む壮年期に達するに連れ、M/O比率は1981年の0.18から2000年の0.74まで上昇した。それと軌を一にして、PERも8から24に3倍に増えた。2000年を境にベビーブーマー世代が盛りを過ぎると、両指標は共に大きく低下している。レポートによると、M/O比率はPERの動きの61%を説明するという。


次にレポートは、人口動態の推移が比較的予測しやすいことを利用し、将来のPERの動きを推計している。その結果が下図である。

上図は単純な予測値だが、エラーコレクションモデルを用いても概ね同様の結果が得られたという(修正前:2010:15→2025:8.4→2030:9.14、修正後:2010:15→2025:8.3→2030:9)


また、レポートでは、消費者物価指数で実質化した利益が年率3.42%(1954-2010年の平均成長率)で伸びるという仮定の下に、PER予測値から株価の予測値も計算している。それによると、実質ベースの株価は2021年まで下降を続け、2010年からの累積下落率は13%に達するという。その後の回復も極めて緩慢で、2010年の水準に戻るのは2027年になるとの由。ただ、M/O比率が2025年に反転に転じるので、その後の株価は力強く回復し、2030年には2010年より20%高い水準に到達するとのことである。


このように近い将来については悲観的な予測結果をこのレポートでは提示しているが、結論部では、M/O以外の要因――債券と株式への相対的な変動性や長期債の利回り、および新興国を初めとする海外投資家の動向――がPERに影響する可能性についても言及している。


なお、Free exchange(署名がR.A.となっているので多分ライアン・アベント)では、このレポートの分析結果に関して以下の2つの問いを投げ掛けている*1

  • そのように株価が下落することが分かっているならば、既にそれを先取りして株価が下がっているはずではないか? それについては、既に先取りして下落しているが、このレポートではさらなる下落が示されたのだ、という解釈もあり得よう。もしそうならば、市場の完全性はその程度のもの、ということになるのだろうか? ヘッジファンドにはそこまで規模の空売りをする体力はないということなのだろうか?
  • 米国株は誰でも売買できるのに、米国の人口動態がここまで大きな要因となっているのはなぜだろうか? あるいは株価が下落していないのは、PERが下がって米国株の魅力が増せば新興国の何百万という若い労働者が買いに入ることを見越してのことなのだろうか?

*1:これらの点はいずれもレポートの前半で理論面の話として触れられてはいる。