低金利が住宅価格の大変動をもたらしたのか?

Economix BlogでEd Glaeserがそう題した記事を書いている(原題は「Did Low Interest Rates Cause the Great Housing Convulsion?」)。そこで彼は、最近の共著論文「Can Cheap Credit Explain the Housing Boom?」の内容を紹介している。


記事の概要は以下の通り。

  • 1980年から2008年の期間において、金利が1%上昇すると住宅価格は概ね6.8%下落した。ただし、トレンド項での調整を加えると、その関係は弱まる。
  • また、金利と住宅価格の関係は、低金利時において強まる。低金利水準では、トレンド項で調整した場合、1%の金利低下は住宅価格の8%の上昇につながる。
  • こうした実証結果には様々な問題があるので(推定期間の短さ、逆方向の因果関係、等々)、理論面からの分析を重視する経済学者も多い。具体的には、借家と持ち家の費用の均等化を仮定した以下の関係式を使うのが一般的:
     家賃=(金利費用+維持費や税金などの費用)×住宅価格−住宅価格の期待上昇幅
  • 家賃が一定ならば、上式は住宅価格上昇が金利低下を相殺することを意味する。標準的な仮定を置いたモデルで計算すると、金利の1%の低下が住宅価格の24%の上昇につながることになる。
  • 今回の論文では、この標準的なモデルで見い出される強い関係を弱める4つの要素について研究した:
    1. 住宅の新築が容易な時期は、金利の住宅価格に与える影響は限定的なものになるだろう(新築による住宅供給が需要を賄うので)。
    2. 住宅ローンの借り換えもまた金利の住宅価格に与える影響を弱める。
    3. 金利が標準的なランダムウォークに従うという変更をモデルに加えた。これがおそらく最も重要な変更。これにより、低金利時に住宅を購入した人が高金利時に住宅を売却する可能性を取り込んだ。その結果、金利の住宅価格に与える影響は半分以下になった。
    4. さらに、実質金利が歴史的な平均水準に回帰するという平均回帰の傾向も取り込んだ。
  • 上記の変更の結果、金利の1%の低下が住宅価格の8%の上昇につながるというモデル予測が得られた。これは前述の実測値に等しい。
  • 1996年から2006年にかけての金利の低下幅は1.2%なので、実証と理論の双方から、住宅価格の上昇率は10%未満と予測される。然るに、実際の上昇率は40%以上であった。また、金利は低い水準に留まったので、住宅バブル崩壊後の価格低下も金利からは説明できない。
  • 金利は重要で無いなどと言うつもりはないし、低金利が住宅バブルに寄与したとも思うが、この件について本当に理解が進んでいる――Glaeserはここで、実証に耐えたきちんとした理論が存在すること、として理解を定義している――とは言い難い、ということには注意すべき。