シニョリッジの現在価値

11/3に紹介したWCIブログエントリのコメント欄で、Nick Rowe中央銀行のシニョリッジの定式化を試みている。以下にそれを(多少手を加えて*1)紹介する。


中央銀行の資産をAと置く。簡単のため、自己資本は無視し、負債Lはすべて紙幣であるものとする(A=L)。
また、ベースマネーの需要が名目GDPに比例すると仮定し、中央銀行がそれに応えるために、名目経済成長率gに比例して紙幣供給を増やしていくものとする。すなわち、今期はgAだけ紙幣供給を増加させる。翌期には資産=負債は(1+g)Aに膨らんでいるので、今度はg(1+g)Aだけ紙幣供給を増加させる。翌々期の増加分はさらにその(1+g)倍のg(1+g)2Aである。
このようにして逓増させる紙幣供給の増加分がシニョリッジであり、その割引現在価値は、以下の式で表される。

  V=\sum_{t=1}^\infty\frac{gA(1+g)^{t-1}}{(1+r)^t}

ここでrは割引率である。紙幣の名目金利は0、実質金利はインフレ率×(-1)だが、ここでは名目値の割引を考えているので、r=0である。

すると、Vは以下のようになる。

  1. g>0ならば、無限大に発散
  2. g=0ならば、0
  3. g<0ならば、-A


この結果を単純に解釈すると、以下のようになる。

  • 名目成長率が正である限り、シニョリッジの現在価値は無限大である。従って、政府の国債を多めに引き受けて資産を前倒しで膨らませても、将来のシニョリッジで十分カバーできることになる。これは、その資産の増加分をいずれgrow outできるからである。
  • 名目成長率がゼロの場合、シニョリッジの現在価値はゼロである。資産は将来もAのままで、増えもしないし減りもしない。
  • 名目成長率が負の場合、シニョリッジの現在価値は資産の-1倍である。つまり、中央銀行の資産の現在価値はゼロとなる。


なお、これは財政の維持可能性の条件*2において、プライマリーバランス(のマイナス値)をシニョリッジ、利払い金利をゼロと置いた場合に等しい。中央銀行の負債である紙幣には利払いの必要が無いので、成長率をプラスに維持しさえすればドーマー条件が満たされ、紙幣残高の対名目GDP比率が発散することは無い(この例では一定比率に保たれる)のである。そして、その比率が未来永劫ゼロになることはないという点で、NPG(No Ponzi Game)条件は満たされないことになる。これは、中央銀行の紙幣発行はポンツィスキームだというRoweの主張と符合する結果と言える。


一方、名目成長率がマイナスの場合はドーマー条件は満たされないが、紙幣残高を同じマイナスの率で減らせば、やはり対名目GDP比率は一定に維持される。しかし、もし紙幣残高の減少率を小さくするか、もしくは増加させようとすると、その比率は発散してしまう。とはいえ、もしそうしたリフレ政策によって名目成長率が正の領域に転移することができれば、無限大のシニョリッジを手に入れることができるので、その実施価値はある、と言えるかもしれない。

*1:たとえば、Roweは管理費用を考慮しているが、簡単化のためここでは省略。

*2:cf. ここ