ジンガレス「毒を以って毒を制せよ」

少し前に、ルイジ・ジンガレスとオリバー・ハートが、今回の危機の一つの大きな原因となったCDSを、危機の解決に活用しよう、と提案していた


ここで彼らは、銀行の資本の問題を、マージンコール(追証)に喩えて説明している。信用取引における委託保証金が資本に相当し、追証の発生が資本不足に相当する、というわけだ。
しかし、両者には大きな違いもある。追証の場合は、取引業者が予め決まっているルールに則って請求するが、銀行で資本不足の警告を出す仕組みを作るのはそれほど簡単では無い。というのは、銀行では債権者が分散している上、資産の評価も容易では無いためである。
解決策としては、規制当局者にその権限を委ねる、ということが考えられる。だがそうすると、彼らがその権限を恣意的に行使し、場合によっては締め付けすぎたり、逆に介入が弱すぎて手遅れになったりする恐れがある。

そこでジンガレス=ハートが提案するのが、CDSを銀行版「追証」のトリガーにする、という仕組みだ。つまり、CDS価格がある臨界値を超えたら規制当局者は銀行に資本強化を要求し、それが達成できなかったら国有化する、というものである。


CDSは金融大量破壊兵器と呼ばれ恐れられてきたが、使い方によって毒にも薬にもなる、というのが、ここでのジンガレス=ハートの主張のポイントである。


理論的にはその通りと思うが、ただ、単に企業の状態を見る目安としてではなく、実際にその生死を左右するツールとしてCDSを使うならば、この記事でNY連銀高官が述べているように、価格決定の透明性を高めることが死活的に重要な前提となろう。もしこの価格が投機や思惑によって動かされ、それによって銀行の運命が決まるような状況になれば、むしろ信用不安を悪化させ、事態がますます悪くなるように思われる。