カーネマン「ルービニは3つの危機のうち10を予測した」

行動経済学で2002年ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが、今回の危機についてインタビューに答えているEconomist's View経由)。


そこで彼は、以下の寓話を披露している。

スイス軍の兵士の一団がアルプスに雪山の行軍の演習に出掛けたが、厳しい天候のために迷子になってしまった。そのうちの一人が近辺の地図を持っていたことを思い出し、それを頼りに何とか一行は町にたどり着き、生還することができた。上官に経緯を報告すると、その上官は地図を見て言った。「地図を見つけたのは結構だが、これはアルプスではなくピレネーの地図だ」

カーネマンはここで、見当違いの地図を役に立たない経済モデルの喩えとして使っている。通常時には役に立った経済モデルも、今のような嵐の時には役に立たない。それでも人々はそれを使い続けている、というわけだ。


その嵐の訪れを事前に予測した経済学者として、カーネマンは、シラーとルービニを挙げる。ただ、問題なのは、ルービニの場合、起きなかった危機まで予測したことにある。言ってしまえば、彼は3個中10個の危機を予測したことになるが、それでもそれは比較的良い成績だ、とカーネマンは皮肉混じりに述べている。
半面、今回の危機を予測した経済学者はその2人を含めて5人しかいなかった(そしてバーナンキはその中にいない)、このことは予測の不可能性を示している、ともカーネマンは述べている。


また、記事によると、カーネマンはタレブと5年前に知り合って意気投合したとのことだ。二人は今回の危機に関しグリーンスパンを糾弾する点で一致している。
タレブはグリーンスパンを、目隠しして通学バスを運転していたようなもの、と評する。滅多に起きないことは起きない、と前提することにより、大きなリスクを取っていた、というわけだ。
カーネマンはグリーンスパンが2つの点で誤っていたと言う。すなわち銀行が公共の目的に奉仕する合理的な存在であると仮定したこと、そして銀行の経営者と銀行の間のエージェンシー問題を無視したこと、である。


なお、記事は、カーネマンの個人の資産運用についての面白いエピソードを紹介している。カーネマンはリスクを嫌い、ヨーロッパタイプの退職後生活、つまり生活費指数に連動した資産収入を得るようなプランが欲しいと考えた。そこで米国の投資カウンセラーにその旨相談したが、米国にはそんなものはない、それは米国の価値観に合わない、と追い払われたとの由。