カリフォルニア大のRichard Bookstaberが、経済学が危機をうまく扱えない理由として、以下の4つの要因が危機時に顕わになるから、とOECD Insightsで述べている(H/T Economist's View)。
- 計算の簡単化ができない
- 単純なシステムならば、その振る舞いを数学的な記述に還元し、将来の振る舞いを手早く予測できるだろう。それは、実際に道を辿ること無しに地図上で町に行けるのと同様。
- しかし、多くのシステムは、ボルヘスの実物大の地図(cf. ここ)と同様、シミュレーションや観察によってシステムの振る舞いを最後まで逐一辿らないと、何が起きるか分からない。そのため、システム自身より先に最終状態が分かるということはない。
- 経済を計算手段に還元できなければ、解析手法を用いてそれを予測することはできない。だが経済学は、それができるものとしている。
- 創発性
- 個人の行動の全体的な効果が、個々の行動と定性的に違うものになってしまう。
- 局所的に安定しているものが、全域的には不安定になってしまうかもしれない。誰も危機を起こそうとはしておらず、むしろ危機の悪影響を避けようと慎重に行動していたのに、危機が発生してしまうことがある。
- 非エルゴード性
- エルゴード性とは、単一の軌跡でも一定のエネルギー下で十分に長い時間が経過すれば孤立系全体を表す、という概念。物理学における機械的なプロセスや、多くの生物学的なプロセスはエルゴード的。
- ボールを蹴った時の将来の動きを予測するのに、現在の位置にボールが来るに至った過去の情報は必要無い。しかし社会的プロセスでは過去は重要であると同時に、単なる過去の延長では将来は予測できない。
- 大いなる不確実性
Bookstaberは、こうした問題を回避する手段として、エージェントベースモデルを推している。