コント:ポール君とグレッグ君(2017年第1弾)

国境税調整を巡る話で、両者の接触があった。

ポール君
仕向け地キャッシュフロー税(DBCFT)の話は分かりにくいが、(比較的)簡単に考える方法がある。付加価値税を起点に考えてみればよいのだ。付加価値税は、国内と海外のいずれの企業についても、内外のいずれの市場でも競争上の優位性を変化させない。どちらの企業も国内市場では払うし(海外企業は国境調整)、海外市場では払わないからだ。
付加価値税では、他社からの購入費である中間投入の費用が控除の対象になる。仕向け地キャッシュフロー税では、それに加えて生産要素の費用も控除の対象となる。生産要素とは主に労働だが、土地も含まれる。だから仕向け地キャッシュフロー税は、付加価値税に、国内の生産要素の利用への補助金を組み合わせたもの、と考えることができる。付加価値税の部分には競争を変化させる要因は無いが、補助金の部分は、賃金と為替相場に変化が無ければ、国内生産を拡大させる。
だがもちろん現実には賃金も為替も変化する。米国が仕向け地キャッシュフロー税を導入したら、競争の優位性を相殺するようにドルが上昇するだろう。
グレッグ君
次のような税改革を考えてみよう:
 1. 国内品、輸入品を問わず、消費財・サービスに小売売上税を掛ける
 2. その一部を原資に法人所得税を廃止する
 3. 残りを原資に給与税の大減税を行う
これは議会共和党が提案しているものに事実上等しい。違いとしては、消費税は小売り段階ではなく生産段階で徴収されるため、小売売上税的なものにするためには輸入に課税し輸出に割り戻すという国境調整が必要になる。また、給与税が減税されるのではなく、企業が労働費用の控除を受けることになる。とは言え、そうした控除は給与税減税と概ね等しい。
個人的には上述の3点計画を気に入っており、従って共和党案も気に入っている。有識者の人たちが、議論となっている話がこの3点計画と基本的に同じであることを認識すれば、国境調整を巡る混乱もかなりの程度消え失せるだろう。
ポール君
今日の論説での貿易の分析が左翼的だという非難を受けたが、仕向け地キャッシュフロー税の経済学に関するグレッグ君の分析は基本的に僕のと同じだということを指摘しておこう。グレッグ君と僕の意見が分かれるのは、収益税を売上税で置き換えるのが良い考えかどうか、という点だ。しかし、それは貿易や国際競争とは関係無い、という点では意見が一致している。
ただグレッグ君は、国境税調整という話は競争に関係するように聞こえる、ということだけが混乱の元になっていると考えているが、それはナイーブに過ぎる。そうした面もあるだろうが、この施策で競争上の不利を無くしまっせ、というのが政治的な売り込み口上の基本線となっているのだ。
グレッグ君(追記)
収益課税から消費者課税へのシフト、というポール君の言い方が完全に正しいとは思わない。それは3点計画の3番目を無視している。収益課税から消費済み収益の課税へのシフト、という言い方の方が正しい。また、この改革は経済成長を促し、生活水準を上げるはずだ。多くの研究が、消費課税の方が、所得課税、就中、資本所得課税よりも望ましい、という結果を示している。だから収益課税から消費済み収益の課税へのシフト、というのは正しい方向への一歩なのだ。