産業連関表を用いた分析・補足の思考実験

昨日のエントリには拙ブログとしては多くのコメントを頂いた。多謝。


昨日の分析の意味を少し整理するため、今日は少し思考実験をしてみる。


輸入した鉄鉱石を鉄に加工して輸出している輸出加工部門と、国内で作った米を精製して消費している純粋国内部門の2部門からなる経済を考える。国内消費は米の消費のみとする。また、設備投資は、製鉄所への投資と精米所への投資の2種類に分かれているものとする。

この経済の各需要項目の数値を仮に以下のように置く。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出 鉄鉱石輸入
280 30 40 60 60

この経済のGDPは280+30+40+60-60=350である。


また、粗付加価値誘発額を以下のように置く。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出
280 30 16 24

米に関係する部分は完全な自立経済で、輸出はなく、また輸入への漏出もなく、自分と同じ額の粗付加価値を誘発するものとする。
一方、鉄関係は輸入への漏出が発生し、粗付加価値誘発額はその分だけ自身の額よりも小さくなるものとする。
この合計値は280+30+16+24=350となり、GDPと一致する。


以上から、粗付加価値誘発係数は以下のようになる。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出
1.0 1.0 0.4 0.4

<ケース1>

今、経済が成長し、以下のようになったとしよう。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出 鉄鉱石輸入
300 40 40 90 90

GDPは300+40+40+90-90=380となり、30増加している。経済を押し上げた項目はいずれも米関係であり、消費が20、精米所投資が10貢献している。一方、製鉄所投資は増えておらず、輸出は30伸びたが、輸入も同額伸びたので、結局、鉄関係は経済成長に貢献していない。

しかし、各需要項目の増加額に粗付加価値誘発係数を掛けて誘発額を求めると、以下のようになる。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出
20×1.0=20 10×1.0=10 0×0.4=0 30×0.4=12


つまり、実際には経済成長に貢献していない輸出が12だけ貢献したことになり、その貢献度は投資全体よりも大きいことになってしまう。また、付加価値額増加合計も42と実額30より大きくなってしまう。
これは、消費+投資+輸出に対する輸入の比率が、粗付加価値誘発係数を推定した時の0.146から0.191に上昇したマイナス要因を考慮していないためである。そのため、このケースでは、輸出の誘発額12からその差額12を差し引き、最終的な輸出の貢献は以下のように0とするのが正しい。

消費 投資 輸出
20 10 0

<ケース2>

次に、経済が成長し、以下のようになったケースを考える。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出 鉄鉱石輸入
300 30 50 90 90

GDPは300+30+50+90-90=380となり、ケース1と同じく30増加している。ただ、今回、米関係は、消費が20増えただけで、精米所投資は伸びていない。一方、製鉄所投資は10伸びている。輸出は30伸びたが、輸入も同額伸びたのは、ケース1と同様である。

各需要項目の増加額に粗付加価値誘発係数を掛けて誘発額を求めると、以下のようになる。

消費 精米所投資 製鉄所投資 鉄輸出
20×1.0=20 0×1.0=0 10×0.4=4 30×0.4=12


輸出が12と投資4よりも大きく貢献したことになり、また、付加価値額増加合計も36と実額30より大きくなってしまうのは、ケース1と同様である。しかし、今回は、その差額36-30=6を単純に輸出の貢献から差し引いて良いかどうかは疑問である。というのは、ケース1の場合は明らかに輸出とは無関係の部門だけが経済成長を遂げていたのに対し、今回伸びた投資は、輸出のみを最終需要者とする部門の投資だからである。そう考えると、超過分の6は投資と輸出の間で比例配分し、最終的に以下のような内訳を推定値とするのが良さそうに思われる。

消費 投資 輸出
20 2.5 7.5

以上をまとめると、結局、ケース1は、経済成長部門が輸出とまったく無関係である場合、ケース2は、投資の成長が輸出部門でのみ生じた場合、ということになる。


昨日の分析で導出した2種類の比率のうち、二番目のものは、ケース1を想定していたことになる。一方、一番目の比率は、ケース2(で消費も比例配分の対象としたもの)を想定していたことになる。いずれも極端なケースなので、真実はその間のどこかにあるということになると思われる。