オークン則と乗数効果・再訪

乗数効果のことを書いていて、以前のエントリで書き残していたことを思い出した。


そのエントリでは、クルーグマンが必要な財政支出額を導き出すのに使ったback-of-the-envelope算式から

オークン則の係数と、乗数効果の支出乗数が一致していると、労働人口一人当たりの平均GDPと、追加雇用者一人当たりの必要財政支出額が一致する。

という考察を導いた*1


そのロジックを簡単におさらいすると以下のようになる。
GDPをY、失業率ギャップをu、オークン則係数をa、財政支出乗数をb、労働人口をNとすると、

  • GDPギャップ=Y×u×a
  • GDPギャップを埋めるのに必要な財政支出額=Y×u×a÷b
  • GDPギャップにより生じている失業者数=N×u

∴失業者一人当たりの必要財政支出額=(Y/N)×(a/b)

よって、a=bならば、失業者一人当たりの必要財政支出額は一人当たりGDPに等しくなる。


前回エントリで書いたのはそこまでだったが、その後、このaとbの大小関係は、財政支出の“効率性”を測る指標になっているということに気づいた。
つまり、bがaよりも大きければ、財政支出は、生産の増大について、平均的な労働者の生産性を上回る効率を達成していることになる。
逆に、bがaよりも小さければ、財政支出は、生産の増大について、平均的な労働者の生産性を下回る効率しか達成していないことになる。
逆に、bとaが等しければ、財政支出は、生産の増大について、平均的な労働者の生産性と同等の効率を達成していることになる。


つまり、オークン則係数は、財政支出乗数について、民間と同等の効率を達成しているかどうかの閾値ないしベンチマークになっているのである。


このことは、次のように考えることからも導かれるだろう。
大まかに言えば、オークン則係数は、労働者が一人失業した時に失われるGDPを計測している。その失われるGDPは、失業によりその人が失う所得だけでなく、その所得が失われなければその人が購入したあろう様々なモノやサービスのGDPへの波及効果も含んでいる。言い換えれば、計測されているのは、その人をミニ政府と見なした場合の乗数効果にほかならない。
従って、政府の支出乗数がそれよりも小さければ、その人が元の職場に復帰した時に得られるであろう効果を達成できていないことになるわけだ。


また、もちろんこれは、減税の乗数のベンチマークとして使うこともできるだろう。

*1:その後ここにも同様のことを書いた。