というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「A Dynamic Theory of Optimal Tariffs」で、著者はEduardo Dávila(イェール大)、Andrés Rodríguez-Clare(UCバークレー)、Andreas Schaab(同)、Stacy Tan(イェール大)。
以下はその要旨。
The classic tariff formula states that the optimal unilateral tariff equals the inverse of the foreign export supply elasticity. We generalize this result and show that an intertemporal tariff formula characterizes the efficient tariff in a large class of dynamic heterogeneous agent (HA) economies with multiple goods. Intertemporal export supply elasticities and relative tariff revenue weights are sufficient statistics for the optimal tariff that decentralizes the efficient allocation. We also develop a general theory of second-best optimal tariffs. In dynamic HA incomplete markets economies, Ramsey optimal tariffs trade off intertemporal terms of trade manipulation against production efficiency, risk-sharing, and redistribution. Intertemporal export supply elasticities and relative tariff revenue weights remain sufficient statistics for the intertemporal terms of trade manipulation motive of second-best optimal tariffs. We apply our results to a quantitative heterogeneous agent New Keynesian (HANK) model with trade.
(拙訳)
古典的な関税の方程式は、最適な一方的関税は海外の輸出供給の弾力性の逆数に等しい、と述べている。我々はこの結果を一般化し、異時点間の関税方程式が、複数の財がある動学的不均一主体経済の多くにおいて効率的な関税を特徴付けることを示す。異時点間の輸出供給弾力性と、相対的な関税収入のウェイトは、効率的な配分を非中央集権化する最適関税の十分統計量である。我々はまた、次善の最適関税の一般理論を構築する。動学的な不均一主体の不完全市場経済では、ラムゼー最適関税は異時点間の交易条件の操作を、生産の効率性、リスクシェアリング、再配分と引き換えにする。異時点間の輸出供給弾力性と、相対的な関税収入のウェイトは、次善の最適関税の異時点間の交易条件の操作についても十分統計量である。我々はこの結果を、貿易のある定量的な不均一主体ニューケインジアンモデル(HANK)に適用した。
本文では、古典的な関税の方程式を以下のように記している(τtが最適関税、εtが海外の供給の弾力性)。
τt = 1 / εt
εt = ∂log X∗t / ∂log pt
この式は、海外は単一の貿易財を生産し、海外の輸出供給が輸入価格の静的関数である場合(x∗t = X∗t(pt))の自然な結果である、とのことである。
計画者が最適な輸入水準を選択する時、消費効用の便益を2つの費用と引き換えにすることになる。一つは、単位輸入当たりptの直接的な金銭費用である。もう一つは、より多くの輸入を求める際の価格上昇で、均衡で海外が輸出を増やすインセンティブをもたらすために必要となる。この均衡における価格変化がεtの逆数に比例する。計画者と違って家計は消費を決定する際にその価格変化を内部化しておらず、最適輸入関税が、家計に社会的に最適な輸入水準を需要するよう動機付けることになる。
論文では、この最適関税理論を動学化し、x∗t = X∗t(p)、p = {pk}k≥0としている。この時、最適関税は
τt = 1 / (ω′tεt)
となる。ここでεは ∂log X∗k / ∂log pt の無限行列である。またωは相対的な関税収入のウェイトで、ωkt = τkpkx∗k / τtptx∗t を要素とする無限行列である。従って
1/τt = ∑k ωkt (∂logX∗k /∂log pt)
と書き表すこともできる。
動学化したものも式としては古典的な式と似ており、計画者は、t時点の海外からの輸入への需要増が均衡における輸入価格の上昇につながることを内部化している。だが古典的な場合と異なり、異時点間の結び付きによって、そのt時点の需要インパルスは、全ての時点kの市場清算条件に影響する。
また、この式は国内の配分が効率的な場合(=国内経済に歪みが無い場合)の最適関税を決定するため、効率的な配分を(おそらくは他のツールと共に)非中央集権化する関税を特徴付けてもいる。その場合、計画者は異時点間の交易条件を操作するためだけに関税を使うことになる。その時、限界代替率は全ての家計で等しくなる。
しかし、効率的な配分が達成不可能な場合、限界代替率を全ての家計で等しくすることはできなくなり、計画者は、輸入x∗tの変化を評価するのが難しくなる。またその場合は、関税を経済の他の非効率性を標的とする次善のツールとして使うことが厚生改善的となる。その次善の策としての最適関税の理論が、この論文の後半で追究されている。