というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人(エガートソン)のページ)。原題は「The Forward Guidance Puzzle is not a Puzzle」で、著者はGauti B. Eggertsson、Finn D. Schüle(いずれもブラウン大)。
以下はその要旨。
In standard New Keynesian models, future interest rate cuts have larger effects than current cuts—this is called the forward guidance puzzle. We argue that the forward guidance puzzle is not a puzzle. We show the puzzle arises from an implausibly large monetary regime change, exceeding anything in U.S. history since the Great Depression. By calibrating our model to four regime changes during the U.S. Great Depression, disciplined by changes in long-term bond yields, we find the model’s predictions are broadly consistent with historical data.
(拙訳)
標準的なニューケインジアンモデルでは、将来の金利引き下げは現在の引き下げよりも大きな効果を持つ――これはフォワードガイダンスパズルと呼ばれている。我々は、フォワードガイダンスパズルはパズルでは無い、と論じる。大恐慌以降の米国の歴史のどんな変化も超えるほどの、信じられないほど大きな金融レジームの変化からパズルが生じることを我々は示す。我々のモデルを、長期債利回りで律しつつ米国の大恐慌の4つのレジーム変化にカリブレートしたところ、モデルの予測が概ね過去データと整合的であることを我々は見い出した。
Just released a new working paper with brilliant Brown grad student Finn Schüle. While teaching second-year graduate students about the Forward Guidance Puzzle, we came to the conclusion that the FGP was... errr... not very puzzling... 1/
The FGP suggests that future interest rate cuts have bigger effects than current ones. This seems indeed quite puzzling. 2/
We assume the "puzzle" emerges from assuming interest rates are fixed between the announcement today of the future cut, regardless of what happens to output and inflation. 3/
This represents a major monetary policy regime change. 4/
Think of it like a fire: Is it puzzling that a flame grows larger the longer you commit to not extinguishing it? That's essentially the FGP. 5/
At the end of the day, the question is empirical. We study 4 episodes from the US Great Depression that closely mirror a FGP scenario, using data on long-term yield to approximate the effect of policy announcement about longer duration of the ZLB. 6/
Our findings? The data aligns with the model predictions. Major monetary policy regime changes have major effects, so the Forward Guidance Puzzle is perhaps not so puzzling after all. End/
(拙訳)
ブラウンの優秀な院生フィン・シューレとの新たなワーキングペーパーを公開したところだ。院の2年生にフォワードガイダンスパズルについて教えていたところ、フォワードガイダンスパズルは・・・えーと・・・それほどのパズルではないという結論に達した・・・。
フォワードガイダンスパズルは、将来の金利引き下げが現在の引き下げよりも大きな効果を持つことを示唆している。これは実際、相当程度パズルのように見える。
今日の声明と将来の引き下げの間、生産とインフレに何が起きようとも金利が固定されていると仮定することから「パズル」が生じている、と我々は仮定した。
これは火事のようなものだと考えてほしい。炎を消さないというコミットが長いほど、炎が大きくなるのはパズルだろうか? フォワードガイダンスパズルは基本的にそれである。
最終的には、問題は実証的なものである。我々はフォワードガイダンスパズルシナリオに良く似ている米大恐慌の4つのエピソードを調べた。長期債のデータを用いて、ゼロ金利下限の期間が長くなるという政策声明に効果を近似した。
何が発見されたか? データはモデルの予測に沿っていた。大きな金融政策のレジーム変化は大きな影響をもたらすので、フォワードガイダンスパズルはおそらく結局はそれほどのパズルでは無いのだろう。
カリブレーションに使った4つのエピソードは以下の通り。
- フランクリン・D・ルーズベルト(FDR)が、1933年の就任直後、物価を大恐慌前の水準(一般的な理解では1926年の水準)にまでリフレートするために金本位制を廃止し、ニューディールをはじめとする各種の新たな政策目標を導入した。
- 1934年にマリナー・エクルズがFRB議長に任命され、ルーズベルト政権に権力を集中させ、インフレ目標の信頼性を高めた*1。
- 約束した1926年の水準に物価が戻っていないにもかかわらず、FRBが早過ぎる金融引き締めを行い、将来の金利とインフレに関する市場の予想を暴力的に動かして、米国史上最も急峻な不況を招いた「1937年の誤り」。
- FDRがヘンリー・モーゲンソウ財務長官とマリナー・エクルズFRB議長を脇に従えて記者会見を行い、1926年の大恐慌前の水準まで物価水準をリフレートすることに再びコミットした1938年の政策反転。これにより第二次大戦の政府支出よりも前に景気回復が始まった。
フォワードガイダンスパズルについて本ブログでも以下の研究を紹介してきたが、モデルの仮定の非現実性からパズルが生じている、というのはさほど目新しい話では無いように思われる。ただ、大恐慌に例を取ってそれを実証面から確かめた、というのは新しい試みかもしれない。
- パレート改善的な金融財政政策:ニューケインジアンモデルにおけるサミュエルソン - himaginary’s diary
- COVID-19パンデミック下での金融政策のフォワードガイダンスの有効性の限界 - himaginary’s diary
- 効用関数に資産を入れたニューケインジアンモデル - himaginary’s diary
- フォワードガイダンスと市場の完全性 - himaginary’s diary
- フォワードガイダンスパラドックス - himaginary’s diary
- 新フィッシャー派とマネタリズムの齟齬の解決? - himaginary’s diary
- 時間軸政策パズル - himaginary’s diary