政府の研究開発の収益率:米国の予算割り当てショックの実証結果

というダラス連銀論文にタイラー・コーエンがリンクしている。原題は「The Returns to Government R&D: Evidence from U.S. Appropriations Shocks」で、著者はAndrew J. Fieldhouse(テキサスA&M大)、Karel Mertens(ダラス連銀)。
以下はその要旨。

We estimate the causal impact of government-funded R&D on business-sector productivity growth. Identification is based on a novel narrative classification of all significant postwar changes in appropriations for R&D funded by five major federal agencies. Using long-horizon local projections and the narrative measures, we find that an increase in appropriations for nondefense R&D leads to increases in various measures of innovative activity, and higher productivity in the long run. We structurally estimate the production function elasticity of nondefense government R&D capital using the SP-IV methodology of Lewis and Mertens (2023), and obtain implied returns of 150 to 300 percent over the postwar period. The estimates indicate that government-funded R&D accounts for about one quarter of business-sector TFP growth since WWII, and generally point to substantial underfunding of nondefense R&D.
(拙訳)
我々は、政府が資金を拠出した研究開発が企業部門の生産性の伸びに与える影響を推計した。識別は、5つの主要な連邦政府機関が資金を拠出した研究開発において戦後に生じたすべての顕著な予算割り当ての変化を、新たに記述ベースで仕分けした分類に基づいている*1。長期のローカル予測と記述の手法を用いて我々は、国防以外の研究開発への予算割り当ての増加が技術革新活動の各種の指標の上昇につながり、長期的には生産性の向上につながることを見い出した。我々は、ルイス=マーテンス(2023*2)のSP-IV手法を用いて、国防以外の政府の研究開発資本に対する生産関数の弾力値を構造的に推計し、戦後期間について150から300パーセントの暗黙の収益率を得た。この推計結果は、政府が資金を拠出した研究開発が第二次大戦後の企業部門のTFPの伸びのおよそ4分の1を説明することを示しており、一般に国防以外の研究開発が著しく不足していることを指し示している。

日本では政府の財政支出についての議論が相変わらず喧しいが、もし日本でもこれだけの収益率を得られているのであれば、研究開発への支出に反対する人はいないだろう。個人的には、国立大学の法人化などの一連の施策はまさにその逆を行ったことにより、敵性国や反体制過激派の各種工作が束になっても敵わないほどの世界史上稀に見る国家レベルの自国窮乏化行為を敢行したことに相当するのではないか、と推測している。

*1:本文によると、景気による予算割り当ての内生的な変化がコントロール変数を回帰に含めるだけでは完全には取り除けないので、資料を読み込んで外生的な変化を拾い上げたとの由。

*2:Dynamic Identification Using System Projections on Instrumental Variables - Dallasfed.org