サーベイ調査ベースの主観的予想が有意義で重要な理由

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Why Survey-Based Subjective Expectations are Meaningful and Important」で、著者はFrancesco D’Acunto(ジョージタウン大)、Michael Weber(シカゴ大)。
以下はその要旨。

For decades, households' subjective expectations elicited via surveys have been considered meaningless because they often differ substantially from the forecasts of professionals and ex-post realizations. In sharp contrast, the literature we review shows household characteristics and the ways in which households collect and process economic information help us understand previously-considered puzzling facts about their subjective expectations. In turn, subjective expectations contribute to explain heterogeneous consumption, saving, investment, and debt choices as well as different reactions by similar households to the same monetary and fiscal policy measures. Matching microdata on households' characteristics with the price signals the same households observe, their subjective expectations, and their real-world economic decisions is crucial to establishing these facts. Our growing understanding of households' subjective expectations inspires several theoretical and empirical research directions and begets the design of innovative and more effective policy instruments.
(拙訳)
何十年もの間、サーベイ調査を通じて導き出された家計の主観的な予想は、専門家予想や事後の実際の値と顕著に異なることが多いことから、無意味と見做されてきた。それとは大いに対照的に、我々が概観する研究では、家計の特性と家計が経済情報を収集し処理するやり方が、家計の主観的な予想に関してこれまで訳が分からないとされてきたことを理解する手助けになることが示されている。一方、主観的な予想は、消費、貯蓄、投資、および債務の不均一な選択を説明することや、似たような家計が同じ金融財政政策手段に対して異なる反応を示すことを説明する助けとなる。家計の特性についてのミクロデータを、同じ家計が観測する物価シグナル、家計の主観的な予想、および実世界における彼らの経済的な決断とマッチングすることは、そうした事実を立証する上で極めて重要である*1。家計の主観的な予想について我々の理解が進んでいることで、幾つかの理論的および実証的な研究の方向性が触発され、革新的でより効果的な政策手段の設計がもたらされている。

導入部では、家計の主観的予想、特にインフレ予想は、消費のオイラー方程式に代表されるように、理論的には現代のマクロ経済モデルの主要な構成要素であり、中銀や研究者が使ってきた完全情報合理的期待(full information rational expectation=FIRE)モデルでは均一とされているにもかかわらず、その実際のサーベイデータは分散が大きく、上方バイアスがあり、時系列の変動が激しくて使えない、と多くの経済学者が考えていることを指摘し、プレスコットの「Like utility, expectations are not observed, and surveys cannot be used to test the rational expectations hypothesis(効用と同様に、予想は観測されず、サーベイは合理的期待仮説を検証するのに使えない)」という有名な言葉を引いている。

*1:例として論文では、燃費の悪い自動車の買い替えに補助金を出す政策(cash-for-clunkers policy)が、IQの低い家計ではIQの高い家計の半分ほどしか効果を発揮しなかった、というフィンランドでの(今回の論文の著者2人も関わった)実証研究を示している。