債務と財政赤字:定常比率による財政分析

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Debt and Deficits: Fiscal Analysis with Stationary Ratios」で、著者はJohn Y. Campbell(ハーバード大)、Can Gao(ザンクトガレン大)、Ian W.R. Martin(LSE)。
以下はその要旨。

We study cointegrating relationships among fiscal variables and output and use them to introduce a new measure of the government's fiscal position. In the US since World War II, we find that the primary surplus-GDP ratio and the government debt-GDP ratio are nonstationary, which invalidates standard analytical approaches that assume them to be stationary. The tax revenue-debt ratio and the government expenditure-debt ratio are also nonstationary but their difference, the primary surplus-debt ratio, is stationary, as is the tax revenue-GDP ratio. We develop a new framework for fiscal analysis that takes account of these facts. Empirically, we find that a deterioration in the fiscal position forecasts a decline in government spending over the long run. It does not forecast increases in tax revenue; nor does it forecast low returns for bondholders. Fiscal adjustment to tax and expenditure shocks occurs primarily through mean-reversion in tax and expenditure growth, with a negligible contribution from expected and unexpected debt returns. We find similar results for postwar UK data.
(拙訳)
我々は財政変数と生産の間の共和分関係を調べ、それを用いて政府の財政状態の新たな指標を導入した。第二次大戦後の米国について我々は、基礎的財政黒字GDP比と政府債務GDP比は非定常的であることを見い出した。それにより、それらが定常的であることを仮定した標準的な分析手法は無効になる。税収債務比と政府支出債務比もまた非定常的であったが、その差分である基礎的財政黒字債務比は定常的であり、税収GDP比もまたそうであった。これらの事実を取り込んで、我々は財政分析のための新たな枠組みを構築した。実証的には、財政状態の悪化から長期的な政府支出の減少が予測されることを我々は見い出した。それによる税収の増加は予測されず、債券保有者の低収益も予測されなかった。税と支出へのショックに対する財政の調整は、主に税と支出の伸びの平均回帰を通じて生じ、予測された、もしくは予測されなかった債務の収益の寄与は無視し得る程度だった。我々は戦後の英国のデータについても同様の結果を見い出した。

本文では、基礎的財政黒字債務比のゆっくりとした平均回帰は、短期的には税収の変化により生じるが、長期的には政府支出の変化により生じる、と記述されている。この結果は税収GDP比をVARモデルに入れたことに依拠しており、税収の高い伸びは税収GDP比を上昇させるものの、それによってGDPの低い伸びが予測され、最終的には税収の低い伸びも予測される、という事実を反映しているとの由(ただし、誘導型の時系列分析なので、税収GDP比の上昇が低成長率を予測するという今回の結果からは、高い税金がGDP成長率を低めるという因果関係は言えない、と断っている)。