3つの一人当たりGDP

少し前に一人当たりGDPの国別ランキングに関するツイートが話題になったので、IMFWEOデータベースのサイトからデータを落としてグラフを描いてみた。ここではアジアは日韓台、欧州は独仏伊、およびアングロサクソンの米英豪を対象とし、期間はデータの取れる1980-2027年とした(ただし、IMFの注意書きによれば、日は2016年、英伊は2021年、それ以外は2022年以降はIMFの推計値)。

ここで注意すべきは、WEOには3種類のドル建て一人当たりGDPが収録されている点である(それ以外に、実質と名目の自国建ての一人当たりGDPも収録されている)。上図では各国についてその3種類のドル建ての値を描画している。
一つは、上のグラフでは青線で描いた2017年時点の購買力平価ベースのドル建て一人当たりGDPである。換算レートの購買力平価を2017年という一時点に固定しているので、為替動向や各国と米国の物価変動の差に左右されない純粋な一人当たりGDPの時系列動向を見るにはこれが適している。
もう一つは、グラフで灰色線で描いた各時点の購買力平価ベースのドル建てである。冒頭でリンクしたツイートで引用されているランキングは、2023年時点のその値を比較している。また、当然ながらすべての国で青線と灰色線は2017年で一致している。
最後は通常のドルベースの値で、グラフでは橙線で描いたが、米国については灰色線と同じ値になっている。

青線の時系列を追うと、日本は1980年代に伸びたものの、その後は伸び悩んでいることが読み取れる。こうした日本の推移と比較すると、韓国や台湾が着実に成長を続け、イタリアを除く欧米各国も底堅く推移しているため、冒頭のツイートで指摘されているような日本が先進国の中で劣後する現状に至ったことが分かる*1
灰色線と青線を比較すると、米国を含むすべての国で、2017年より前は灰色線が青線を下回り、2017年より後は灰色線が青線を上回っている。即ち、2017年に灰色線が青線を下から突き抜けていく形で推移している。これは、購買力平価の基準となる米国については、物価変動を調整して実質化する形にしていることの表れかと思われる*2
灰色線と橙線を比較すると、日韓台と独仏伊では2027年に向けて灰色線の方が上放れしていく傾向が見られるが、英豪では収束している。これは、前者の各国では購買力平価が実際の対ドルレートより増価する傾向にあるのに対し、後者の英豪では近付く傾向にあることを反映している。実際、各国について購買力平価と対ドルレートを比較して描画すると以下のようになる(青線が購買力平価、橙線が対ドルレート)*3

このように、GDP指標の各国比較の際に使われる購買力平価の動向が、実際の対ドルレートの動向と国によってかなり異同があるというのは、注意を要するところである。

*1:ただし当該ツイートへのリプで指摘されているように先進国から脱落というのは言い過ぎのようであるが。

*2:実際、データベースには実質ベースの一人当たりGDPも収録されているが、米国についてはそれを2017年基準に換算したものが2017年時点の購買力平価ベースのドル建て一人当たりGDPと一致する。

*3:ここでは自国通貨建ての一人当たりGDP購買力平価もしくは米ドル建ての一人当たりGDPで割って計算(なお、購買力平価のドル自体もデータベースに収録されており、それについてはここで計算した値と一致する)。ただし、米国の対ドルレートは2017年時点購買力平価の一人当たりGDPをドル建て一人当たりGDPで割って計算。