中国はまだナンバー1ではない

とジェフリー・フランケルvoxeuおよびProject Syndicateに書いている。これは中国が今年GDPで米国を抜くとFTなどで報じられたことを受けたもの。その報道は世銀の国際比較プログラム(ICP)の報告を基にしているが、フランケルに言わせれば、同プログラムの購買力平価によるGDPの比較には問題があるという。


フランケルによれば、一人当たり所得を比較する場合には、各人がその所得で何を買えるのかを測るという点で購買力平価を使うのが適切だが、一国全体の所得を比較する場合には実際の為替レートを使った方が適切だという。というのは、国全体の規模や力を見たいという時は、以下のようなことを把握したいからである:

  • 多国籍企業から見て中国市場はどのくらいの大きさか?
  • 世界金融市場において、人民元はドルの国際通貨としての地位に挑戦するのか?
  • IMFなどの国際機関から見て、中国は資金面でどの程度貢献でき、その見返りにどの程度の投票権を持つべきか?
  • 南シナ海で領有権を争う国々から見て、中国海軍はどれだけの船舶数が買えるのか?

確かに為替レートは振れが大きいが、購買力平価の測定誤差はそれよりも遥かに悪い。為替レートの5年平均を取った方がまだましだ、というのがフランケルの見解である。為替レートでみた場合、中国が米国に追いつくのは今年ではなく2021年になるという(下図参照)。



購買力平価についてフランケルは、以下の目的に使うのには有用だ、と指摘している:

  • 国民の生活水準の向上に成功した政府を判別する
    • 中国の一人当たりGDPアルバニアと同程度で、199ヶ国中の真ん中(99位)
  • 生産性でコントロールした通貨が「過小評価」されていないかどうか推計する
  • 公害対策に乗り出すべきかどうか判断する
    • 国際データによると、二酸化硫黄の転換点となる一人当たり所得は、ドルの現在価値にしておよそ1万ドル

またフランケルは、一人当たり所得の比較においては、購買力平価を使うのも実際の為替レートを使うのも大差無い、と言う。というのは、バラッサ=サミュエルソン効果によって購買力平価は一人当たり所得との相関が高いからである。いずれにせよ、国力は一人当たり所得だけでなく人口もモノを言う、とフランケルは改めて指摘している。


ちなみにConversable EconomistブログのTimothy TaylorもICP報告を取り上げ報告書から以下の図を引用している:

Taylorも購買力平価の使用に注意を促しているものの、フランケルのように実際の為替レートの方が良いという話には踏み込んでいない。また、中国と米国の一位争いの話にも特に触れていない。