コロナ禍による死者数を過小推計した疫学者たち

12/31エントリで触れた経済学者から疫学者への批判の一つには、コロナ禍による死者数を過大に見積もっている、というものがあった。これは一般の人々からも特に西浦博士の推計に対し批判が寄せられる点である。一方、米国では、NYTのDavid Wallace-Wellsが最近書いた論説記事で、逆方向、即ち疫学者がコロナ禍による死者数を過小予測した、という批判がなされている。
以下はタイラー・コーエンによる記事の引用

Dr. Bhattacharya, for instance, proclaimed in The Wall Street Journal in March 2020 that Covid-19 was only one-tenth as deadly as the flu. In January 2021 he wrote an opinion essay for the Indian publication The Print suggesting that the majority of the country had acquired natural immunity from infection already and warning that a mass vaccination program would do more harm than good for people already infected. Shortly thereafter, the country’s brutal Delta wave killed perhaps several million Indians. In May 2020, Dr. Gupta suggested that the virus might kill around five in 10,000 people it infected, when the true figure in a naïve population was about one in 100 or 200, and that Covid was “on its way out” in Britain. At that point, it had killed about 45,000 Britons, and it would go on to kill about 170,000 more. The following year, Dr. Bhattacharya and Dr. Kulldorff together made the same point about the disease in the United States — that the pandemic was “on its way out” — on a day when the American death toll was approaching 600,000. Today it is 1.1 million and growing.

以下は上記引用の箇条書きによるまとめ。

  • ジェイ・バッタチャリア博士(Jay Bhattacharya - Wikipedia
    • 2020年3月(WSJ):コロナの致死性はインフルエンザの1/10、と述べる。
    • 2021年1月(The Print):インドの大部分は感染で既に自然免疫を獲得しており、ワクチンの大量接種は既に感染した人にとって益よりも害が大きい、と述べる。
      • そのすぐ後に、致死性の高いデルタ株がおそらく数百万のインド人を死に至らしめた。
  • スネトラ・グプタ博士(Sunetra Gupta - Wikipedia
    • 2020年5月(UnHerd):コロナウイルスの致死率は感染者10,000人当たり約5人であり、英国では「収束しつつある」と述べる。
      • 実際の致死率は免疫の無い100~200人当たり1人。その時点で英国人の死者は約4万5千人で、その後17万人が死亡した。
  • ジェイ・バッタチャリア博士とマーティン・クルドーフ博士(Martin Kulldorff - Wikipedia
    • 2021年6月(WSJ):米国のコロナ禍は「収束しつつある」と述べる
      • その日の米国の死者は60万人近くになっていた。今日では110万人で、さらに増加しつつある。

コーエンは引用された疫学者のことをGBD crowdと呼んでいるが、グレートバリントン宣言の提唱者ということのようである。コーエンは、これらの学者は控えめに言っても「外した」が、そのことは忘れられつつある、と指摘している。とは言え、これらの人々をいかなるSNSからも出禁にすべきではない、ともコーエンは指摘している。

経済危機への対応については、サマーズが言うように過剰反応するくらいでちょうど良い、という見方があるが、パンデミックへの対応は過剰反応すると経済が過度に落ち込むのでそういうわけにはいかず、死者数を過小推計するのも過大推計するのも問題、というのが難しいところと言えそうである。