異議の正当化

昨今の日本のSNSを騒がせているいわゆる「人文系」の騒動をはじめとしたネット上のいがみ合いについてタイムリーかつ示唆的ともいえる表題のNBER論文が上がっているungated版)。論文の原題は「Justifying Dissent」で、著者はLeonardo Bursztyn(シカゴ大)、Georgy Egorov(ノースウエスタン大)、Ingar K. Haaland(ベルゲン大)、Aakaash Rao(ハーバード大)、Christopher Roth(ケルン大)。
以下はその要旨。

Dissent plays an important role in any society, but dissenters are often silenced through social sanctions. Beyond their persuasive effects, rationales providing arguments supporting dissenters' causes can increase the public expression of dissent by providing a “social cover” for voicing otherwise-stigmatized positions. Motivated by a simple theoretical framework, we experimentally show that liberals are more willing to post a Tweet opposing the movement to defund the police, are seen as less prejudiced, and face lower social sanctions when their Tweet implies they had first read scientific evidence supporting their position. Analogous experiments with conservatives demonstrate that the same mechanisms facilitate anti-immigrant expression. Our findings highlight both the power of rationales and their limitations in enabling dissent and shed light on phenomena such as social movements, political correctness, propaganda, and anti-minority behavior.
(拙訳)
異議はどのような社会でも重要な役割を果たすが、異議を唱える人はしばしば社会的制裁を通じて沈黙させられる。異議を唱える人の理屈を支える議論の基となる理論は、人々を説得するという効果以外にも、そうした防壁が無ければ烙印を押されてしまう立場の人々が声を上げるための「社会的な防壁」を提供することによって、公けの場での異議の表明を増やす、という効果もある。我々は、単純な理論的枠組みに基づき、リベラル派の人が、警察の予算を減らす運動に反対するツイートをより積極的に投稿したり、偏見が少ないと見られたり、自らの立場を支持する科学的な証拠をまず目にしたということがツイートに含意されていると受ける社会的制裁が小さくなったりすることを実験的に示す。保守派の人に同様の実験を行うと、同じ仕組みで反移民の表現が許容されることが示される。我々の発見は、異議を可能ならしめる上での理論の力とその限界を共に浮き彫りにし、社会運動、ポリティカル・コレクトネス、プロパガンダ、および反マイノリティ的行動といった事象に光を当てる。

この実験でリベラル派の人に示された「科学的な証拠」とは、警察の予算を減らすと犯罪が増えることを示した信頼できる研究のことで、それを目にした上で警察の予算を減らすことに反対したリベラルは、それを目にする前から警察の予算を減らすことに反対したリベラルに比べ、人種的不寛容という烙印を押され難かった、との由。
一方、保守派の人に示されたのは、FOXニュースでタッカー・カールソンが米判決委員会の統計に基づき不法移民の暴力犯罪は一般市民よりも遥かに多いことを示した30秒のビデオクリップ*1で、それを目にした上で不法移民の国外退去に賛成した保守派は、それを目にする前から不法移民の国外退去に賛成した保守派に比べ、反移民という烙印を押され難かった、との由。

*1:これ