マラドーナはミニマックスをプレーしていた

というLSEのIgnacio Palacios-Huertaの論文(原題は「Maradona Plays Minimax」)をタイラー・コーエンが紹介している
以下は論文本文からの引用。

Consider the simplest version of a penalty kick: a 2 × 2 model of players' actions where m = {L, R} denotes the kicker's choice, g = {L, R} the goalkeeper's choice, with L = left, R = right, and where πmg denotes the kicker's probabilities of scoring:

m/g L R
L πLL πLR
R πRL πRR

The kicker wishes to maximize the probability of scoring, while the goalkeeper wishes to minimize it. This game has a unique Nash equilibrium when πLR > πLL < πRL and πRL > πRR < πLR. Equilibrium play requires each player to use a mixed strategy, and yields two sharp testable predictions about the behavior of the kicker and the goalkeeper:
1. Success probabilities -- the probability that a goal will be scored (not scored) for the kicker (goalkeeper) -- should be the same across strategies for each player;
2. When the game (penalty kick) is played several times, each player's choices must be serially independent. That is, players must be concerned only with instantaneous payoffs and intertemporal links between penalty kicks must be absent. Hence, players' choices must be independent draws from a random process; therefore, they should not depend on one's own previous play, on the opponent's previous play, on their interaction, or on any other previous actions.
(拙訳)
ペナルティキックの最も単純なバージョンを考えてみよう。選手の行動の2 × 2モデルで、L = 左、R = 右として、m = {L, R}はキッカーの選択、g = {L, R}はゴールキーパーの選択を表し、πmgはキッカーの得点確率を表すものとする。

m/g L R
L πLL πLR
R πRL πRR

キッカーは得点確率を最大化しようとし、ゴールキーパーはそれを最小化しようとする。このゲームはπLR > πLL < πRLかつπRL > πRR < πLRの時にユニークなナッシュ均衡を持つ。均衡プレーでは各選手が混合戦略を用いることが要求され、キッカーとゴールキーパーの行動について2つの明確な検証可能な予測を生じる。

  1. 成功確率――キッカー(ゴールキーパー)がゴールを決める(守る)確率――は、各選手の戦略によらず同じである。
  2. ゲーム(ペナルティキック)が数回行われる場合、各選手の選択には系列相関があってはならない。即ち、選手は一回ごとのペイオフのみに関心を持ち、ペナルティキックの異時点間の関係は存在してはならない。従って、選手の選択はランダムプロセスから独立に抽出したものとなるべきである。そのため、その選択は、自分の過去のプレーや、相手の過去のプレー、およびそれらの相互作用、あるいは他のいかなる過去の行動にも依存してはならない。


マラドーナは1976-1997年の21年間のプロ生活において109のペナルティキックを蹴り、90の得点を挙げたという(成功確率=82.56%)。そのうちPalacios-Huertaが映像を取得できたのは94で、得点は80だったとの由(成功確率=85.1%)。
マラドーナの利き足は左だったので、左に蹴るのがマラドーナにとっての「自然な」戦略となる*1
mLマラドーナゴールキーパーの左に蹴った確率、gLゴールキーパーが左に飛んだ確率とすると、観測された得点確率は以下の通りだったという。

gL 1-gL
mL 70.58 91.42
1-mL 96.15 68.75

ここから導出される混合戦略ナッシュ均衡の予測頻度と、実際のマラドーナペナルティキックの混合確率は以下の通りだったという*2

mL 1-mL gL 1-gL
ナッシュ予測頻度 56.80% 43.19% 47.00% 52.99%
マラドーナゴールキーパーの実際の頻度 55.31% 44.68% 45.74% 54.25%

即ち、両者ともにナッシュ予測から1.5%ポイント以内の頻度を選択したとの由。

この後論文では上記の1と2の検証を行っているが、いずれも当該の帰無仮説は棄却されなかったという結果を報告している。

*1:中央に蹴ったのが4回あったが、プロの選手は体の動きや助走の関係から中央に蹴ることを利き足方向に蹴るのと同様に自然と見做しているので、ここではそれもそちらに含めたとの由。

*2:gLの予測値は、左に蹴った時の期待得点EML=70.58gL+91.42(1-gL)と右に蹴った時の期待得点EMR=96.15gL+68.75(1-gL)の連立解。mLの予測値は、左に飛んだ時の期待得点EGKL=70.58mL+96.15(1-mL)と右に飛んだ時の期待得点EGKR=91.42mL+68.75(1-mL)の連立解(論文ではそれぞれについてグラフを示している)。