集団免疫論者は正しかったのか? スペインの事例

前回エントリでタイラー・コーエンの集団免疫効果への懐疑論を紹介したが、コーエンは26日エントリでKbenesという人がmediumに書いた論考をその懐疑論の補強材料として紹介している
以下はそのKbenesの記事の冒頭。

After a relatively calm early summer, Spain has been at the forefront of a second wave of COVID-19. In Spain’s hardest hit provinces from the first wave of the pandemic the proportion of the population with antibodies to SARS-CoV-2 (the virus that causes COVID-19) is 10–15% or higher.
If the model(s) with the lowest projections for herd immunity threshold(s )(HIT) are correct, then by the end of the May many provinces in Spain would have been very close to achieving herd immunity. During the second wave, the areas at or close to HIT would be expected to experience much slower and lower growth of cases.
Did this happen? Were Spain’s hardest hit provinces in the spring spared in the second wave?
(拙訳)
比較的落ち着いた初夏の後、スペインはCOVID-19の第2波の最前線となった。スペインでパンデミックの第一波により最も深刻な打撃を受けた県では、SARS-CoV-2(COVID-19を引き起こすウイルス)抗体保有者の人口比率が10-15%ないしそれ以上となっている。
集団免疫閾値(HIT)について最も低い予測を出しているモデルが正しければ、5月末までにスペインの県の多くが集団免疫達成に非常に近いところまで行っていたはずである。第2波においては、HITないしその近傍にある地域では感染者の伸びはかなり鈍くかつ低くなると期待される。
実際にそうなっただろうか? スペインで春に打撃が最も深刻だった県は第2波を免れただろうか?

それを検証するためにKbenesが描画したのが下図である。
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ここで横軸は各県の5月末時点の抗体保有者比率、縦軸は6月15日以降の各県の人口10万人当たりの累積感染者数である。集団免疫に何らかの効果があれば、この図では負の相関が見られるはずであるが、実際には弱いながら正の相関が見られる、とKbenesは言う。仮にHITが達成されていなくても感染経験者が多ければ感受性者が減り実効再生産数は下がるはずで、その下がり方は低位HIT予測モデルの方が標準モデルより大きくなる、と彼は指摘する。
マドリードを例にとると、第1波で抗体保有者比率がおよそ13%になったとされるが、HITモデルの低位予測モデルの一つの推計によれば、これは実効再生産数が基本再生産数より6割低くなることを意味する。そのことは上図のマドリードの第2波における感染者数の多さにそぐわないのではないか、とKbenesは言う。
Kbenesは、これは集団免疫の効果を棄却するものではない、と慎重な書きぶりで断りつつも、集団免疫の効果が発揮されたという明確な証拠はまだ出ていない、とは言えるかもしれない、と述べている。さらに彼は別記事で、スウェーデンでの集団免疫の効果についても否定的な論考を書いている。