米国版雇用調整助成金は高くつく?

マンキューが少し前のブログエントリで、2つの論文を基に、米議会が約5000億ドルを支出した給与保護プログラム(Paycheck Protection Program=PPP)に否定的な評価を下している。
まず彼は、Chetty et al.の論文から以下の一節を引用している。

We therefore conclude that the PPP had little material impact on employment at small businesses: we cannot rule out a small positive employment effect of the program (of e.g., 3-4 pp on employment rates), but it is clear that the program did not restore the vast majority of jobs that were lost following the COVID shock.
(拙訳)
以上から我々は、PPPは中小企業の雇用に実質的な影響をあまり与えなかった、と結論する。プログラムの小さなプラスの雇用効果(例えば雇用率における3-4ppの効果)を排除することはできないが、COVIDショック後に失われた職の大部分を取り戻さなかったことは明らかである。

次いで彼はAutor et al.を参照している。彼は、こちらの論文はより肯定的なトーンであることを認めつつも、以下の一節を引用している。

Our benchmark estimates imply that each job supported by the PPP cost between $162K and $381K through May 2020, with our preferred employment estimate implying a cost of $224K per job supported.
(拙訳)
我々のベンチマーク推計は、2020年5月までにPPPによって支援された職は各々16.2万ドルから38.1万ドルのコストが掛かったことを含意している。我々が選好する雇用推計は、支援された職当たり22.4万ドルのコストを含意している。

この推計されたコストについてマンキューは、公的資金の良い使い方ではない、と評している。その上で、それは驚くべきことではなく、財政政策は、企業を支援するよりも、以前彼が提案したように人々を支援するのに重点を置く方が良いのだ、と持論を展開している。

ちなみにAutorらの元論文ではマンキューの引用箇所の後に以下のように書いており、マンキューほどこのコストの数字に否定的ではない。

While this is a substantial cost per job supported, it would be premature to offer a cost-benefit analysis of the PPP at this time. The long-run economic effect of the PPP will depend, in substantial part, on the evolution of employment at treated versus untreated employers over the longer run. PPP may, for example, have preserved valuable intangible capital, which would have positive long-run economic effects that are not detectable this early in the recovery process. An important and challenging set of questions is whether jobs and businesses supported by PPP will persist after the program ends; whether those businesses would have persisted absent PPP; and, had they been allowed to fail, whether new jobs and businesses would have rapidly emerged to replace them. Future work will seek to address these questions using outcome data over a longer time span.
(拙訳)
これは支援された職当たりについてかなりのコストではあるが、現時点でPPPの費用便益分析を提示するのは早計であろう。PPPの長期的な経済効果のかなりの部分が、政策措置を受けなかった雇用者に比べて政策措置を受けた雇用者の雇用が長期的にどう推移するかで決まる。例えばPPPは貴重な無形資本を維持したかもしれず、その無形資本によって回復過程のこの初期の段階では検出できない長期のプラス効果がもたらされたかもしれない。重要かつ難しい一連の質問は、PPPによって支えられた職と企業がプログラム終了後も存続するか、PPPが無くてもそれらの企業は存続していたか、および、それらの企業の倒産を許容していた場合、新たな職と企業が急速に出現してそれらを置き換えていたか、である。今後の研究は、長期に亘る結果のデータを用いてこれらの質問に答えることを追求することになろう。