仮想通貨の7つの致命的なパラドックス

と題したBOEブログエントリ(原題は「The seven deadly paradoxes of cryptocurrency」)で同行のJohn Lewisが仮想通貨の以下の7つの矛盾を突いている

  1. 混雑のパラドックス
    • 通常の交換の媒介は、使う人が多くなるほど良い(ネットワーク外部性、規模の経済)。しかし仮想通貨のプラットフォームは、キャパシティが概ね固定されているため、ラッシュアワーのロンドンの地下鉄と同様、混雑に弱い。過剰な需要を抑えるために手数料を引き上げることになる。
  2. ストレージのパラドックス
    • 分散型台帳は、ユーザーや取引がN倍になるとNの2乗だけストレージの必要総量が増える。BISの試算によれば、全米の小売取引を分散化台帳に展開した場合、2.5年後の1ユーザー当たり必要ストレージは100ギガバイト以上になる。
  3. マイニングのパラドックス
    • マイニングを行う側は、ブロック当たりのトランザクション数を抑えて通貨を非流動的にすることにより取引手数料を高めようとするが、これはユーザー側の要望と真っ向から対立する。仮想通貨を保有したい投資家からどんどん資金が流れ込めばこの問題は一時的に緩和するが、その資金の流れが止まればまた顕在化する。それに対し、通常の交換の媒介は取引インフラを維持するためにそのような大きな資本流入を必要とすることはない。
  4. 集中のパラドックス
    • 分散化が喧伝されているのとは裏腹に、多くの仮想通貨は保有が少数の人に集中している。彼ら大口所有者は、換金のため売り抜けようとすると価格が下がるため、売るに売れない状況にある。仮想通貨でこのような流動性効果が他の資産に比べて大きいのは、以下の理由による:
      1. 交換所が非流動的
      2. 市場に比べて巨大過ぎるプレイヤーがいる
      3. 買い手と売り手が自然に均衡しない
      4. 意見が大きく振れ、かつ偏っている
  5. 評価のパラドックス
    • 仮想通貨にはキャッシュフローが無いので割引現在価値が無く、金のように宝石への加工や産業用途に利用できるという「本質的価値」も無い。マイニングコストもサンクコストに過ぎず、価値を表すものではない。クルーグマンの言うように自己実現的な予想しか価値の源泉が無いのであれば、それは教科書的なバブルの定義である。
  6. 匿名性のパラドックス
    • 匿名性は、犯罪者にとってはともかく、合法的な金融取引にとっては欠点である。ブロックチェーンによって支払いの受け取りの確認や二重支払いの防止は(不完全ながら)できるものの、他の多くの問題が未解決である:
      1. 取引や所有を実名の団体まで辿ることができなければ、市場操作やあからさまな詐欺行為のリスクが高まる
      2. 大抵の金融取引には異時点間の要素(融資、先物取引金利付きの資金の預け入れ)があるが、匿名性の下では、お金を渡した後に相手が約束を違えることを糺すのが困難
    • 仮想通貨の法的枠組みが整備されれば価値が上がる、とする研究もある
  7. イノベーションパラドックス
    • イノベーションによって現在より良い仮想通貨が将来現れると思われれば、現在の仮想通貨は価値を失う。商品は消費時点の評価が価値となるので、今後イノベーションが進んで今の商品の評価が将来はゼロになると予想されても無価値になることは無いが、仮想通貨は、将来も支払いが受け取られる、ないし、将来も評価が維持される、という予想から価値が生じているので、それが崩れた途端に無価値となる。新たなイノベーションを現在の仮想通貨にも取り入れることができれば話は別だが、これまで挙げた6つのパラドックスは本質的なものなので、それができるとは思われない。