勃興しつつある中国を西側はどのように判断すべきか

2週間ほど前のエントリで、デロングが中国の直面する問題について以下のように書いている

The big problem China will face in a decade is this: an aging near-absolute monarch who does not dare dismount is itself a huge source of instability.
The problem is worse than the standard historical pattern that imperial succession has never delivered more than five good emperors in a row. The problem is the aging of an emperor. Before modern medicine one could hope that the time of chaos between when the grip on the reins of the old emperor loosened and the grip of the new emperor tightened would be short. But in the age of modern medicine that is certainly not the way to bet.
Thus monarchy looks no more attractive than demagoguery today.
We can help to build or restore or remember our “republican remedy for the diseases most incident to republican government“. An autocracy faced with the succession and the dotage problems does not have this option. Once they abandon collective aristocratic leadership in order to manage the succession problem, I see little possibility of a solution.
And this brings me to Martin Wolf. China's current trajectory is not designed to generate durable political stability:
(拙訳)
10年後に中国が直面する大きな課題は、次の通り。即ち、その座を降りようとしない老いつつある絶対君主に近い統治者が、それ自身、不安定性の大いなる源になることだ。
この問題は、続けて5人より多くの良い皇帝が皇位継承によりもたらされたことは決して無かった、という標準的な歴史のパターンよりも悪い話だ。問題は皇帝の老化にある。現代医学の到来以前は、前の皇帝の統治力が衰え、次の皇帝の統治力が強まる間の混乱期は短い、という望みがあった。しかし現代医学の到来後は、その望みに賭けるのは間違いなく難しくなっている。
従って、君主制が今日の民衆扇動主義より魅力的だとは思われない。
我々は、「共和制政府に最もありがちな病弊に対する、共和制的な治療法*1」を構築したり修復したり覚えておいたりするよう努力することができる。君主の後継問題と高齢化問題に直面した独裁制には、その選択肢が無い。後継問題を片付けるために高位者による集団指導体制を破棄してしまった現在、解決法は無きに等しいように見える。
この話はマーチン・ウルフの論説につながる。中国の現在の軌跡は、持続的な政治的安定を生み出すように設計されてはいない。

これに続けてデロングはウルフの表題の論説(原題は「How the west should judge a rising China」)を抜粋引用しているが、その冒頭は以下の通り。

Chinese political stability is fragile...History suggests that they are right. The past two centuries have seen many man-made disasters, from the Taiping Rebellion of the 19th century to the Great Leap Forward and cultural revolution. It is quite easy therefore to understand why members of the elite seem convinced that renewal of the Communist party, under the control of Xi Jinping, is essential. We must recall that the upheaval of modernisation and urbanisation through which China is now going, destabilised Europe in the 19th and early 20th centuries. Yet this tightening of control could derail the economy or generate a political explosion in a country containing an ever more literate, interconnected and prosperous people. China wishes to be a huge Singapore. Can it?
(拙訳)
中国の政治的安定性は脆弱である・・・歴史はそのように述べる人たちが正しいことを示している。過去2世紀の間、19世紀の太平天国の乱から大躍進や文化大革命に至るまで、多くの人災があった。従って、指導層の人々が、習近平の支配の下で共産党を一新することが肝要だ、となぜ確信しているかを理解するのは極めて容易である。中国で現在進行中の近代化と都市化という大変動が、19世紀と20世紀初頭の欧州を不安定化させたことを我々は思い起こす必要がある。とは言え、人々がますます教養を高め、相互のつながりを深め、裕福になる社会でそのように支配を強化することが、経済を軌道から踏み外させたり、政治的爆発を招く可能性もある。中国は巨大なシンガポールになりたいと願っているが、なれるだろうか?

この後ウルフは、中国からの見方として以下の項目を挙げ、それぞれについて自分の見解を論じている。

  • 西側モデルの信用は失墜した
    • 中国の指導層のその見方は正しく、残念ながらそれは失墜した。
    • かつて我々は、西側は介入主義的で自己中心的で偽善的だが、有能だ、と考えていた。しかし金融危機ポピュリズム台頭の後は、西側は自分の政治経済システムを上手く運営できる、という能力面についても疑問符が付いた。
    • 個人の自由の表現として民主主義と市場経済を信ずる者にとっては、この失敗は手痛い。
    • この失敗には改革を以って対処するほかは無いが、残念ながら西側で実際に起こっているのは非生産的な怒りである。
  • 中国は世界を支配したいとは思っていない
    • その点は疑問。これまでの大国と同様、中国は間違いなく世界秩序を自らの好みに合わせようとしている。
    • また、中国人留学生をはじめとして、海外の行動にも影響を与えようとしている。そうしたことは、中国の力が海外に伸長していくという不可避の流れの表れ。
  • 中国は米国から攻撃されている
    • パワーゲームは必然的にゼロサムゲームとなる。中国の意図が何であれ、中国のパワーの増強は米国にとって脅威と見做される。
    • 中国のチベットや台湾に対する立場を本当は容認していない人は多い。彼らは中国の意図に疑念を抱き、その成功を快く思っていない。
  • 米国の貿易交渉の目的は訳が分からない
    • その点で中国は正しく、米国のやり方は馬鹿げている。しかし中には本当に重要な問題もあり、とりわけ知財問題がそうである。
  • 中国はそうした攻撃を乗り切る
    • それはほぼ間違いないだろう。中国にとってより重大な脅威は、厳しさを大きく増す外部環境に対する国内の反応にある。
  • 今年は試練の年になる
    • そうなるだろう。むしろ、今世紀が試練の世紀となる。
    • 西側は真剣に考える必要がある。米国がその力を一方的に振るえばそれで話は済む、という米政権の見方は失敗に終わるだろう。トランプ政権はそもそも気にしていないかもしれないが、そのやり方で世界の共有財を管理することはできず、世界の安定を達成することもできない。
    • 西側は、自国を上手く運営できないことが自らの最大の敵になった、ということを認識する必要がある。
    • 将来の相互依存世界への唯一の道は、相互の尊敬と多国間の協力によってしか開けない。

*1:cf. ここ