ドジットモデル

Marc BellemareがMetrics Mondayで、順序性の無い選択肢(通勤に自家用車、バス、バイク、徒歩のいずれを使うか、専攻を文科系、科学、ビジネス、工学のいずれにするか、等)を対象とした離散選択モデルについて論じている
最も一般的なモデルは多項ロジット(multinomial logit=MNL)モデルだが、このモデルには、無関係な選択肢からの独立性(independence of irrelevant alternative=IIA)を仮定しているという欠点がある。例えば通勤に自家用車を使うか赤いバスを使うかの確率が半々である場合、第3の選択肢として青いバスが現れたとしても、自家用車を使う確率は、青いバスを使うか赤いバスを使うかというそれとは無関係の選択とは独立しているはずである。だがもし青いバスの登場によって自家用車を使う確率が変化するならば、IIAは成立していないことになる。実際にIIAが成立しているとは限らない状況は数多くあり、その最も単純な例はコンドルセパラドックス*1である、とBellemareは言う。
IIAの仮定を緩めたモデルとしては、一般化極値(generalized extreme value=GEV)モデルと多項プロビット(multinomial probit=MNP)モデルがあるが、いずれも望ましくない仮定を立てたり推計が困難だったりする、とBellemareは指摘する。例えばMNPはN変量正規分布についての積分を計算することになるが、2〜3変量より多くなると計算負荷が大きくなる。
そこでBellemareが紹介するのが、ドジット(dogit)モデルである。これはMarc GaudryとMarcel Dagenais*2が1977年のTransportation Research B掲載論文で導入したもので、ネーミングは「dodge it」と掛けているという*3。即ち、IIAを織り込むか否かを予め決定する必要を回避している(dodge)との由。というのは、IIAについてはデータから決めるようにしているから、とのことである。
このモデルのもう一つの特長は、ある選択肢について一定程度の「束縛」を認めている点だという。例えば消費者は、食料のようなある支出分野について、書籍など他の分野に支出する前に、価格に関わらず一定量を支出する必要があり、そうした支出分野に「束縛されて(captive)」いる。なお、別の特長としては、MNLで推計できる代替効果の他に所得効果が推計できることが論文では挙げられているが、Bellemare自身はそのことが論文から読み取れなかったとの由。

*1:cf. 投票の逆理 - Wikipedia

*2:二人ともBellemareが学部生の時の計量経済学の先生だったとの由。

*3:ちなみにBellemareはここで「This is not a post about Fox Mulder’s replacement.」というキャプション付きでロバート・パトリックの写真を掲げている。最初は意味が分からなかったが、写真のファイル名を見てこの人を指したギャグだと理解。