サマーズ「FRBが過ちを犯していると考える5つの理由」

サマーズが、昨日エントリで触れたデロングらの公開書簡に言及しつつ、FRBの現在の政策が誤っていると彼が考える理由を5点指摘している。内容的にこれまで紹介してきた彼のFRB批判(ここここここここここここ)と比べてそれほど新味はないが、それぞれの指摘の要点を簡単に紹介してみる。

  1. 過去数年のFRB金利予測は、市場の予測に比べ、極めて非現実的なほど引き締め方向に偏っていた
    • FRB予測と市場予測を比べる場合、前者はハト派と目されるイエレンの実際の影響力が十分に反映されていないこと、後者は期間プレミアムが含まれていることに注意する必要があるが、結果的に両者ともに上方バイアスがあるので、市場に比べFRB金利予測が高めだったことには変わりない。
    • 市場は近い将来にFRBが2%のインフレ目標を実現できるとは信じていない。
      • もしインフレが上昇している時にこのように出遅れていたら評論家たちはヒステリーを起こしているだろう。彼らは、遅れを取らないためにFRBは断固として行動を起こすべし、と公言することだろう。実際に実施されたならばインフレを押し下げて現在の予測よりも目標からさらに遠ざけるような行動に関する信じられていない予測についても、懸念が生じて然るべきではないか?

  2. 2%のインフレ目標は対称的、というFRBの常なる言明と、予測の平仄が取れていない
    • 回復が11年目に入り、失業率が自らの推計するNAIRUを明白に下回っている時に、たった2%のインフレを予測するとはどういうことか? そうした予測は、10年間インフレが目標を下回った場合のみ出てくるもの。
    • PCEコア物価は、過去10年間に目標が達成されていた場合に比べ、4.3%低い水準にある。
    • インフレ目標を2.3%か2.5%に引き上げるべき。

  3. インフレに先制攻撃を仕掛けるにはインフレの脅威を正しく判断する必要があるが、我々にはその能力はほぼ無い
    • 過去25年間にフィリップス曲線はほとんど姿を現していないし、かつてスタイガー、ストック、ワトソンが示したように、NAIRUなるものが存在していたとしても、極めて不正確にしか推計できない。
    • 現在、FRBのすべてのモデルに反し、コアインフレもインフレ予想も低下しつつある。ここで先制攻撃を仕掛ける理由は無い。

  4. 長期停滞のため、同じ金利水準でも過去に比べて拡張効果は弱くなっている、と信ずべき相当の理由がある
    • 現在の状況で2%の金利が特に拡張的だとは思われない。
    • ゼロ金利下限の存在により、FRBが間違えて経済を不況に陥れた場合の状況が深刻なものになることは間違いない。このことも拡張方向へのバイアスを持つべき理由となる。

  5. サマーズの主唱する「インフレの白目が明確になる」まで待つという政策の枠組みは、物価の安定に関与することを放棄せよ、という意味ではない
    • FRBは単に、長期的な平均インフレ率を2%にすることが目標だ、と言いさえすれば良い。
    • インフレは持続的なものではあるが、FRBがインフレを予測する際には生産や雇用の指標よりもインフレやインフレ予想のデータに力点を置くのだ、というシグナルを出しつつ予測するのは非常に困難である。FRBはそのことを認めるべき。