ブレグジットは直接的影響よりリスク増大が怖い

明日の英国の投票を前にして、サマーズがWaPoFT自ブログに「Why Brexit would be a history-defining, irreversible mistake」というエントリを上げている(ただしFT記事のタイトルは「Global risks of Brexit dwarf the likely direct impact」で、ブログ記事にリンクしているEconomist's Viewの見出しもそちらのタイトルになっている)。
7日に紹介した論説でサマーズは、ブレグジットに比べてトランプ大統領の方が遥かに大きな問題、という論陣を張っていたが、今回はブレグジットの弊害を強く訴えている。曰く:

Put simply, Brexit could well be the worst self-inflicted policy wound by a G7 country since the formation of the G7 40 years ago. It is a risk no prudent policymaker would take. And the risk is not confined to the UK. In the current context, Brexit would unsettle the global economy and possibly tip it into recession. Four points are crucial.
(拙訳)
簡単に言えば、ブレグジットは、40年前にG7が形成されて以来、G7の国が自らの政策で引き起こした損害の中で最悪のものとなる可能性が十分にある。それは思慮深い政策当局者が決して取らないようなリスクである。そしてそのリスクは英国内にとどまらない。現在の状況では、ブレグジットは世界経済を揺るがし、景気後退に陥れかねない。4つの点が重要である。

以下はその4点。

  1. 他の大部分の経済政策の選択と違って、ブレグジットは不可逆過程である。
  2. ブレグジット後に市場は常ならぬ変動を経験する可能性が高い。
    • 木曜の投票の後にはブラック・フライデーが続くのではないか。海外の英国株への投資家は、市場の下落と為替損失とを合わせ、15%の損失を直ちに蒙るだろう。
    • 2008年時点よりも中銀の武器がかなり少なくなっていることを考えると、大きな損失が清算の連鎖につながるというシステミックリスクが再来した場合、重大な事態が出来するだろう。
  3. ブレグジットは信頼性を損ない、不確実性を増加させる。
    • 企業が英国を離れる動きが強まり、英国は景気後退に陥るのではないか。
  4. ブレグジットは大きな悪影響をもたらす可能性が高い。
    • 成熟した民主主義の砦とされてきた国でこれほど非合理的かつ危険な行動が取られた、ということで、ポピュリスト政策の危険性が改めて見直され、資産価格が大きく下落し、資金は金やスイスフランに流出するだろう。その結果、信頼性の低下と資産価格の下落の悪循環が続く。
    • スムート・ホーリー法と大恐慌の関係を想起。計算上は関税の大恐慌への影響は小さなものにとどまるが、心理面では転換点だったと思われる*1ブレグジットも、直接的な影響よりも遥かに大きな影響を世界に与える恐れがある。

サマーズは、合理的な経済的選択は残留のみ、と述べて記事を結んでいる。

*1:スムート・ホーリー法と大恐慌の関係に関する議論についてはここここ参照。