ソーシャルレンディングは銀行にとって脅威となるか?

という点についてBOEブログで考察がなされている*1。著者は同行のPaolo Siciliani。


そこでは、従来の銀行に比べたソーシャルレンディングの利点として、以下の3点を挙げている。

  1. 広範な支店網や、更新が困難なITシステムなどから発生する従来型の運転費が存在しないこと
  2. 支払いのインフラへのアクセスを得る必要がないこと
  3. 公的な預金保険の仕組みに加入した場合に発生する資本要件や手数料が存在しないこと
    • 英国の場合、ソーシャルレンディングにも貸出総額について逓減的な資本規制が課されているが、最高でも最初の5000万ポンドまでに課される0.2%であり、銀行や住宅金融組合に課される最低資本比率の3%より低い。

ただ、銀行は最低資本規制が厳しい分、公的預金保険が使えるので、預金の調達コストがソーシャルレンディングより安くなる。ただし、大抵のソーシャルレンディングは自身の「予備的ファンド」を設立してリスクを管理している。
ソーシャルレンディングの提示する利率は銀行の同様の金融商品よりも高い。Zopaの場合、5年以内について3.5%と4.5%の利回りを提供しているのに対し(早期解約手数料は1%)、固定利率の5年物債券は3%を下回る。一方、貸出利率はソーシャルレンディングも銀行も似たようなものである。
従って、ソーシャルレンディングの市場シェア拡大は、調達コストを競争的なレベルに維持しつつファンドを拡大していけるかに掛かっている、とSicilianiは言う。そのためには小口投資家を一層拡大するか、それとも保険会社などの機関投資家に販路を広げるか、という2つの選択肢があるが、英国では依然として小口投資家が調達先の大半を占めるため、Sicilianiはそちらに焦点を当てて話を進めている。


一つのシナリオは、高い調達コストを補って余りあるだけの低い運転費を利用して貸出金利を下げ、優良な借り手を銀行から引き抜くことにある、とSicilianiは言う。それによってリスク調整後リターンを高めれば、預金保険がないことを勘案してもソーシャルレンディングが十分に安全だと小口投資家が考えるようになり、シェアを拡大していける、というわけである。また、貸出金利が低ければ、借り手のリスクプロファイルも改善する。
ただ、このようなソーシャルレンディングのシェア拡大が進むことは、銀行から見ればディスインターミディエーションであり、信用リスクエクスポージャーの悪化要因である。その場合銀行は、貸出金利の引き上げもしくは預金金利の引き下げによって利益を確保しようとするか、あるいは逆に、対ソーシャルレンディングの貸出金利引き下げ競争に走ることになる。これが行き過ぎれば銀行の弱体化による金融安定性の問題につながりかねない。そしてソーシャルレンディング側についても、借り手を選別しモニタリングする能力に疑問符が付けば、資金流入があっという間に止まってしまう、というリスクがある。


なお、こうしたシナリオが進展するか否かは、多くの要因に左右される、ともSicilianiは指摘している。例えば、調達コストの初期時点における不利を補うために、ソーシャルレンディングはやはり銀行に比べ相対的にリスクの高い借り手に貸さざるを得ないかもしれない。あるいは、ソーシャルレンディングがリスク調整後リターンを改善しても、小口投資家にはそれを預金保険の付いている預金と比較衡量だけの能力がないかもしれない。また、小口投資家がソーシャルレンディングに投資するにしても、知名度や運用総額を基準にする可能性が高いため、新規に立ち上げるソーシャルレンディングは苦戦し、既存の大手のソーシャルレンディングの寡占状態が続くだろう、という点もSicilianiは指摘している。