気候変動の不確実性をモデル化する:複数モデルの比較

というNBER論文をノードハウスらが書いている。原題は「Modeling Uncertainty in Climate Change: A Multi-Model Comparison」で、著者はKenneth Gillingham(イェール大、現在CEAシニアエコノミスト)、William D. Nordhaus(イェール大)、David Anthoff(UCバークレー)、Geoffrey Blanford(EPRI=米国電力研究所*1)、Valentina Bosetti(ボッコーニ大)、Peter Christensen(イェール大)、Haewon McJeon(パシフィック・ノースウェスト国立研究所*2)、John Reilly(MIT)、Paul Sztorc(イェール大)。
以下はその要旨。

The economics of climate change involves a vast array of uncertainties, complicating both the analysis and development of climate policy. This study presents the results of the first comprehensive study of uncertainty in climate change using multiple integrated assessment models. The study looks at model and parametric uncertainties for population, total factor productivity, and climate sensitivity. It estimates the pdfs of key output variables, including CO2 concentrations, temperature, damages, and the social cost of carbon (SCC). One key finding is that parametric uncertainty is more important than uncertainty in model structure. Our resulting pdfs also provide insights on tail events.
(拙訳)
気候変動の経済学はありとあらゆる不確実性を含んでおり、気候変動対策の分析および展開を複雑なものとしている。本研究では、複数の統合評価モデルを用いた気候変動の不確実性に関する初の包括的な研究結果を提示する。本研究では、モデルについて、人口、全要素生産性、および気候感応度についてのパラメータの不確実性を取り上げる。ここでは、二酸化炭素濃度、気温、損害、および炭素の社会的費用など主要な出力変数の確率密度関数を推計する。主要な発見の一つは、パラメータの不確実性はモデル構造の不確実性よりも重要、ということである。我々が得た確率密度関数は、テールイベントに関する洞察も提供する。


ungated版の結論部では、分析手法について以下のように解説している。

The approach is based on estimating classic statistical forecast uncertainty. The central methodology consists of two tracks. Track I involves doing a set of model calibration runs for the six models and three uncertain parameters and estimating a surface response function for the results of those runs. Track II involves developing pdfs for key uncertain parameters. The two tracks are brought together through a set of Monte Carlo simulations to estimate the output distributions of multiple output variables that are important for climate change and climate‐change policy. This approach is replicable and transparent, and overcomes several obstacles for examining uncertainty in climate change.
(拙訳)
本手法は、古典的な統計的予測不確実性の推計に基づいている。中心となる手法は、二段階に分かれている。第一段階では6モデルの3つの不確定パラメータについてカリブレーションを繰り返し、その結果について曲面応答関数を推計する。第二段階では、主要な不確定パラメータの確率密度関数を求める。この二段階を一連のモンテカルロシミュレーションで組み合わせ、気候変動と気候変動対策にとって重要な複数の出力変数の出力分布を推計する。この手法は再現可能で透明性が高く、気候変動の不確実性を調べる上での幾つかの障害を克服している。


その上で、主要な結論として以下の6点を挙げている。

  1. 各統合評価モデル(integrated assessment models=IAMs)の中心的な予測は、モデル開発者のベースラインのパラメータでは、驚くほどよく似ている。それはお互いの比較を意識したためと思われる。しかし、人口成長率、生産性成長率、均衡気候感応度といった主要な不確定パラメータについて代替的な仮定を適用した予測は大きく食い違っている。
  2. そのように代替的なパラメータについての結果がモデルごとに違うにも関わらず、構造や複雑さが相異なるモデルにおいて、主要な出力変数の分布は驚くほど似ている。例えば2100年の気温分布の分位値の差は、95パーセンタイルに至るまで0.5度以下に留まる。
  3. モンテカルロシミュレーションの変動係数で見た不確実性は、気候関係の変数(2100年の二酸化炭素濃度、放射強制力、気温)の方が、経済変数に関係する生産や損害よりも小さい。このことは、不確実性を減らして政策策定を改善するためには、経済変数と損失関数に関するさらなる研究が重要であることを示している。
  4. 炭素の社会的費用を除くすべての出力変数について、パラメータの不確実性の方が、モデルごとの構造の不確実性よりもかなり大きい。例えば2100年の気温上昇の不確実性において、モデルごとの平均の差(アンサンブル不確実性)は、全体の不確実性のおよそ4分の1で、残りがパラメータの不確実性によるものだった。今回対象とした6モデルだけですべての手法を尽くしているとは言えないにせよ、それらは統合評価モデルの規模、構造、複雑さのばらつきを代表するものである。
  5. 排出、世界の平均表面温度、および損害の分布について、ファットテールを支持する証拠は得られなかった。人口成長率、全要素生産性成長率、気候感応度は気候変動における3つの主要な不確定変数だが、現在のモデルについて検証した結果では、分布のテールは比較的薄い。即ち、それらの変数の変化に伴う確率の低下は、分散が無限大のパレート過程におけるよりもかなり大きい。今回の研究対象範囲に限定した話、という点には注意する必要があるが、これは費用便益分析に警鐘を発したワイツマン(2009)*3に反する結果である。
  6. 3つの不確定パラメータのうち、人口成長率と均衡気温感応度の分散の変化は、単独では出力変数の不確実性への影響は比較的小さかった。一方、生産性成長率の不確実性は、すべての主要な結果変数の不確実性に大きな影響を及ぼした。これは、その不確実性は累積効果が大きく、21世紀末における生産、排出、濃度、気温変化、損害の不確実性を極めて大きくしてしまうため。

*1:Wikipedia

*2:Wikipedia

*3:cf. ここ