人口動態はインフレと金融政策に影響するのか?

というBIS論文をMikael Juselius(フィンランド銀行)とElőd Takáts(国際決済銀行)が書いている。原題は「Can demography affect inflation and monetary policy?」。
以下はその要旨。

Several countries are concurrently experiencing historically low inflation rates and ageing populations. Is there a connection, as recently suggested by some senior central bankers? We undertake a comprehensive test of this hypothesis in a panel of 22 countries over the 1955-2010 period. We find a stable and significant correlation between demography and low-frequency inflation. In particular, a larger share of dependents (ie young and old) is correlated with higher inflation, while a larger share of working age cohorts is correlated with lower inflation. The results are robust to different country samples, time periods, control variables and estimation techniques. We also find a significant, albeit unstable, relationship between demography and monetary policy.
(拙訳)
幾つかの国では歴史的な低インフレと高齢化が同時に進行している。幾人かの中央銀行の高官が最近示唆したように、両者には関係があるのだろうか? 我々は、1955-2010年の期間における22ヶ国のパネルで、この仮説の包括的な検証を行った。我々は、人口動態と低頻度のインフレとの間の安定した有意な相関を見い出した。具体的には、依存人口比率(即ち若年層と高齢層の比率)が高いほどインフレが高いという相関、ならびに、労働人口比率が高いほどインフレが低いという相関が見られた。この結果は、対象国、対象期間、コントロール変数、および推計手法の違いに対し頑健であった。我々はまた、人口動態と金融政策の間の有意だが不安定な関係も見い出した。


中央銀行家の仮説として本文では、高齢化が低成長期待を通じてデフレ圧力につながるという白川前日銀総裁の経済学的な説と、インフレの再配分効果から高齢層は若年層よりも低インフレを好み、そうした有権者の選好が金融政策に反映される、というブラード・セントルイス連銀総裁らの政治学的な説を取り上げている。この論文の結果は高齢化がインフレにつながるという点でどちらの説にも反しているが、実質金利をコントロールした後でも人口動態の影響が残るので、金融政策経由で人口動態が影響するという政治学的な説明よりは、経済学的な説明の方をより支持している、と著者たちは述べている。また、依存人口という若年層と高齢層を共に含んだ変数による分析になっているので、論文の実証結果に高齢化のトレンドを機械的に当てはめることはできないかもしれない、という注釈も加えている。


金融政策については、1980年代半ばまでは人口動態のインフレへの影響を強める方向に働いていたが、その後は逆方向に働くようになったという。即ち、1980年代半ばまでは人口動態によるインフレ圧力が高い時に実質金利が低くなっていたが、その後は人口動態によるインフレ圧力が低い時に実質金利も低くなっており、金融政策が人口動態の圧力を完全ではないにせよ相殺していたとのことである。結局のところ、実質金利はずっと低く留め置かれていたわけだ。