ジェフリー・サックスの計画経済のすゝめ

ジェフリー・サックスがProject Syndicate論説で、自由市場主義とケインズ主義の両経済学にダメ出ししている(H/T Mostly Economics)。

The problem with both free-market and Keynesian economics is that they misunderstand the nature of modern investment. Both schools believe that investment is led by the private sector, either because taxes and regulations are low (in the free-market model) or because aggregate demand is high (in the Keynesian model).
Yet private-sector investment today depends on investment by the public sector. Our age is defined by this complementarity. Unless the public sector invests, and invests wisely, the private sector will continue to hoard its funds or return them to shareholders in the forms of dividends or buybacks.
(拙訳)
自由市場経済学とケインズ経済学の共通の問題は、現代における投資の本質を見誤っていることだ。両派は、税と規制が低水準である(自由市場モデルの場合)、もしくは総需要が高水準である(ケインズモデルの場合)、という理由によって民間部門が投資を主導する、と考えている。
しかし今日の民間部門の投資は、公的部門の投資に依拠している。我々の時代はその相補性が特徴となっているのだ。公的部門が投資、それも賢く投資しない限り、民間部門は資金を溜め込み続けるか、配当や自社株買いの形で株主に還元していくことになる。


ここでサックスは、以下の6種類の資本財をカギになるものとして挙げている。

  • 企業資本
    • 民間企業の工場、機械、輸送設備、情報システム
  • インフラ
    • 道路、鉄道、電力・水力システム、光ファイバー、パイプライン、空港、海港
  • 人的資本
    • 労働者の教育、スキル、健康
  • 知的資本
    • 社会の中核となる科学や技術のノウハウ
  • 自然資本
    • 農業、健康、都市を支えるエコシステムならびに天然資源
  • 社会資本
    • 効率的な交易、金融、政府を可能ならしめる共同体における信頼

それらが相補的に働くことによって、投資や金融、および社会そのものが機能する。例えば誰もが人的資本への公共投資にアクセスできない状況では、所得や資産の極端な格差によって社会が駄目になってしまう、とサックスは言う。
またサックスは、かつての投資は単純であり、発展へのカギは基礎教育、道路網や電力網、機能する港、世界市場へのアクセスだった、と指摘する。しかし今日では、公的な基礎教育だけではもはや不十分であり、公共と民間が共に資金を拠出する高等教育が求められている。輸送にも単なる政府による道路建設以上のものが求められており、電力網も低炭素電力の必要性を反映する必要がある。さらに知的資本にも政府の投資が求められている。
だが多くの国では政府の投資はむしろ削減されている。自由市場の信奉者は政府に生産的な投資はできない、と言い、ケインズ主義者も必要な公共投資についてきちんと考えず、支出は支出だ、と言う。そのために公共投資が枯渇し、それによって必要な民間投資も抑え込まれている、というのがサックスの考えである。

In short, governments need to learn to think ahead. This, too, runs counter to the economic mainstream. Free-market ideologues don’t want governments to think at all; and Keynesians want governments to think only about the short run, because they take to an extreme John Maynard Keynes’ famous quip, “In the long run we are all dead.”

Here’s a thought that is anathema in Washington, DC, but worthy of reflection. The world’s fastest growing economy, China, relies on five-year plans for public investment, which is managed by the National Development and Reform Commission. The US has no such institution, or indeed any agency that looks systematically at public-investment strategies. But all countries now need more than five-year plans; they need 20-year, generation-long strategies to build the skills, infrastructure, and low-carbon economy of the twenty-first century.
(拙訳)
要するに、政府は先のことを考えるようになる必要がある。このこともまた、経済学の主流派の見解に反する。自由市場の信奉者たちは政府に何も考えてもらいたくない。ケインジアンは政府に短期のことだけを考えてもらいたいのだが、それは彼らがジョン・メイナード・ケインズの「長期的には我々は皆死んでいる」という有名な警句を極端にまで推し進めているからだ。
ワシントンDCの人々にとって忌むべきものとなっているが、一考の価値がある考え方が存在する。世界で最も急速な成長を遂げている経済である中国では、公共投資は5ヶ年計画に準拠しており、国家発展改革委員会により管理されている。米国にはそうした組織はなく、実際のところ、公共投資戦略を体系的に見る官庁は全く無い。しかしすべての国は5ヶ年計画以上のものを必要としている。すべての国は、労働者のスキル、インフラ、および21世紀の低炭素経済を構築するため、20年という一世代の期間に相当する長さの戦略を必要としているのだ。


Mostly EconomicsのAmol Agrawalは、この論説に対し、以下のように驚きを表明している。

Did I read that right? Prof. Sachs actually advocating Chinese plans!! India just scrapped its planning commission and one still does not know what shall replace it..
The east has always looked at west for economic inspiration but west has always ignored east. Now a days, we read quite a few west guys looking eastwards for economic inspiration. And guess what? East is abandoning much of what the west is looking at.(apologies for twisted language..)
(拙訳)
読み間違いか? サックス教授がなんと中国の計画を支持している!! インドはつい最近計画委員会を廃止したが、その代わりをどうすべきか未だに分かっていない。
東側は経済の考え方について常に西側を見習ってきたが、西側は東側を常に無視してきた。今日では、少なからぬ西側の連中が経済の考え方について東側にヒントを求めている。ところが何と、東側は西側の求めているものの多くを捨て去りつつあるのだ。(ひねくれた言い方になって申し訳ない)