コント:ポール君とグレッグ君(2013年第11弾)・補足

12/5に紹介したマンキューのクルーグマン批判エントリの追記で、「最低賃金の不公平性に関するエントリで再読の価値あり」というコメントを添えてスティーブン・ランズバーグの今年2/18エントリがリンクされていた。


リンク先のエントリでランズバーグは、David NeumarkとWilliam Wascherの「Minimum Wages (The MIT Press)」の結論部から以下の文章を引用している:

minimum wages “reduce employment opportunities for less-skilled workers and tend to reduce their earnings; they are not an effective means of reducing poverty; and they appear to have adverse longer-term effects on wages and earnings, in part by reducing the acquisition of human capital.”
(拙訳)
最低賃金は)熟練度の低い労働者の雇用機会を減少させ、彼らの所得を減少させる傾向にある。最低賃金は貧困を減少させる有効な手段ではない。それは、人的資本の修得を減らすことなどによって、賃金や所得に長期に亘って負の効果を及ぼしているように思われる。

その上で、クルーグマン2/16NYT論説を以下のように批判している:

Thus, in particular, when Paul Krugman tells you that “there just isn’t any evidence that raising the minimum wage near current levels would reduce employment”, he is, not for the first time (and not even for the first time this week) being dishonest — though this time is a little different, since he’s now relying more on his readers’ ignorance than their stupidity.
(拙訳)
従って、とりわけポール・クルーグマンが「現行水準付近で最低賃金を引き上げることが雇用を減少させる証拠は一切存在しない」と書いた時には、彼は――初めてのことではないが(しかも今週においても初めてのことではない)――不正直なのだ。読者の愚かさよりは無知を当てにしているという点で、今回は少し違うが。


ただ、ランズバーグは、実際に最低賃金付近で働いている人にとっては、最低賃金引き上げによる賃金上昇とそれに付随する雇用喪失の可能性は賭けるに値するギャンブルかも知れず、その点に鑑みると、雇用喪失の可能性を云々することは最低賃金への反対論としてはあまり良い議論ではない、とも論じている*1。ランズバーグに言わせれば、最低賃金引き上げの本当の問題は、負担が最低賃金労働者の雇用者に集中することにあり、本来はその負担は(EITCなどによって)社会全体で負担すべきではないか、とのことである*2



なお、マンキューは、オバマケアの医療コスト削減効果を取り上げた(=それぞれの主張にリンクした)11/25エントリでも、クルーグマンを批判したジョン・グッドマンのForbes記事へのリンクを追記している。同記事でグッドマンは、一人当たり実質医療費の伸び率が2010年以降に鈍化した功績をオバマケアに帰したクルーグマン11/29NYT論説を槍玉に挙げ、反証として、医療費の伸びの鈍化がオバマケア成立前年の2009年に始まったこと、およびそれ以降の伸び率はむしろ横ばいとなっていることを指摘している。グッドマンはクルーグマンのそれ以外の論点にも反論しているほか、返す刀でクルーグマン論説の一つの論拠となった公開書簡をまとめたデビッド・カトラー――マンキューがこのエントリ*3で「先見の明がある(prescient)」と評した――についても、ケイシー・マリガンらの批判によって信頼性が完全に地に落ちた、と斬り捨てている。

*1:このランズバーグの議論は小生がここで展開した議論と同様と言える。

*2:なお、この点については、ここで紹介したように、最低賃金とEITCは代替的手段ではなく補完的手段である、という見解もある。

*3:cf. ここ