ミネアポリス連銀の調査部門で何が起きているのか?

11/23エントリで触れたミネアポリス連銀の粛清騒動について、デロングがエコノブロゴスフィアの反応を自ブログでまとめている。ただ、そこでデロングがリンクした5つのエントリのうち、3つはむしろ粛清された側の非を問う内容になっており、追放ないし異動させられたエコノミストのキーホーらは、“被害者”のはずなのにバッシングされるという市川海老蔵状態になっている。


デロング自身もエントリのタイトルを「いや、ミネアポリス連銀調査部門で何が起きているのか知らないけれど…(No, I Do Not Know What Is Going on at Minneapolis Fed Research...)」と題しつつも、続けて

I do think that the monoculture they had developed was unhealthy--it did leave them completely unable to even think about the world post-2007 at all.
(拙訳)
彼らが発展させた単一文化が不健全なものだった、とは思う。そのせいで彼らは、2007年以降の世界がどうなるか想像さえまったく出来ない状況に陥った。

と書き、ミネアポリス連銀の調査部門が淡水派の独擅場になってきたことに冷ややかな目を向けている*1


以下は5つのエントリからのデロングの引用部分の概要。

Stephen Williamson
コチャラコタ総裁は自らの調査部門に戦争を仕掛け、破壊しようとしている。彼は、トロント市長*2と同じく、自らの殻に閉じこもっている。トロント市長は他のどの分野でも役立たずのようなので、辞職してできるだけ人里離れたところに行って欲しい。コチャラコタは研究者としては優秀だが、中央銀行家には向いていないので、大学に戻るべき。
Mark Thoma
非常に我の強い集団におけるコミュニケーション不足と指導力不足が大方の原因ではないか。それがコチャラコタと調査部門の軋轢につながったのだろう。コチャラコタの転向やら塩水と淡水の対立やら低金利とデフレに関する見方やら以前の問題。
Nick Rowe
2010年8月と2013年5月にコチャラコタは人前で馬鹿なことを言った*3。賢い人でも馬鹿なことを言うものだが、顧問の仕事はそれを止めることにある。いずれの場合でも、どんな凡庸な経済学者でさえ総裁が馬鹿なことを言おうとしていると助言できたはずなのに、彼らは言わなかった。彼らは仕事を仕損じたために馘になったのだと思う*4
マイルス・キンボールとノアピニオン氏
ミネアポリス連銀の最も著名かつ長く働いてきたエコノミストのPatrick KehoeとEllen McGrattanの追放劇は、FRBの変化、および経済学自体の地殻変動の表れではないか。彼らは、景気後退は経済の失敗ではなく、技術進歩のむらのあるペースに経済が反応したことによる不可避かつ健全な帰結である、と信じていた。また、金融政策はインフレに影響を与えることができても景気後退に対処することはできない、とも信じていた。2008年の危機前夜、塩水学派のオリビエ・ブランシャールが塩水学派と淡水学派は合意に達した、という論文を出した時さえ、キーホー(Kehoe)は塩水学派のニューケインジアンモデルには根本的な欠陥がある、と論じた論文を出した。その数ヶ月後の2008年末に、米国は大恐慌以来最悪の景気後退に見舞われ、すぐに世界の大半もそれに続いた。淡水学派のマクロ経済学者は、この状態が健全に機能している経済の効率的な帰結である、といかに説明するかに頭を悩ませることになった。
クルーグマン
マイルス・キンボールとノアピニオン氏はこの件に関する長い記事を書いているが、実際に何が起きたか、という点については用心深く避けている。自分も又聞きでいろんな話を聞いたが、信頼できるものではないので、彼らと同様に慎重に振舞うこととしよう。我々が問うことができるのは、論文を数多く出している研究者から価値を得ることができない、とコチャラコタがなぜ考えたか、という点である。キンボールとノアピニオン氏は、淡水学派のマクロ経済予測の広範な失敗を強調している。ラリー・サマーズはIMFのコメント*5で、おそらくはキーホーらのこの論文*6を念頭に、淡水学派を嘲笑した*7。これまで何度か書いてきたように、経済学者は時事問題について間違いを犯すし、大きく間違えることもある。重要なのは、次に何をするかだ。自分の分析枠組みのどの部分のせいで間違えるに至ったかを省みるか、それとも最初の考えに固執するか。後者の道を選ぶ人間は、政策決定機関で付加価値をもたらすことはできないことは確かだ。

*1:ただ、その一方で、Thomaの見方が正解かも、とも書いている。

*2:cf. Wikipedia

*3:cf. ここここ

*4:このRoweのエントリにはStephen Williamsonがコメントし、見てきたようなことを言うんじゃない、エレン(Ellen McGrattan)によればコチャラコタは総裁就任当初から調査部門とのコミュニケーションを絶っていたのだ、とRoweの見方を批判した。それに対しRoweは、それが事実ならば僕の説は成立しないね、と素直に応じている。

*5:講演をIMFのビデオから書き起こした奇特な人がいたようで、クルーグマンはそのトランスクリプトにリンクしている。

*6:本ブログの11/23エントリで要旨を紹介した。なお、クルーグマンは当時のライアン・アベントによる批判にリンクしている。

*7:cf. 小生のはてぶ