OMTはQEに非ず

昨日のエントリでは、クーレECB理事のパリ政治学院での講演を取り上げたが、そこで彼は、ECBの南欧国債購入計画(Outright Monetary Transactions=OMT)に関する3つの懸念を払拭することに努めていた。その第一は、昨日取り上げた財政ファイナンスの懸念だったが、今日は残り二つの懸念について簡単にまとめておく。

懸念2:OMTはECBのバランスシートに多大なリスクを持ち込むことになるのではないか?
ならない。ユーロ離脱の危険を反映したプレミアムが債券価格から取り除かれれば、投資家は市場に戻り、証券価格はファンダメンタルズに沿ったものとなる。家計や企業はクレジット環境の改善の恩恵を受ける。それによってリスクの全般的な見直しが進展すれば、中央銀行保有分を含め、全ユーロ圏のポートフォリオの価値が高まる。OMTが対象国に課す厳しい条件は、その進展を助ける。
懸念3:OMTはQEの一種ではないか?
違う。OMTはユーロ圏のクレジット環境の均質性を取り戻そうとしているのであって、クレジット環境を全体的に緩和しようとしているわけではない。現時点では、ユーロ圏にはQEを正当化するようなデフレ懸念は存在しない。
また、トランスミッション経路も違う。QEでは、デュアレーションの長い証券をデュアレーションの極めて短いベースマネーに置き換えることにより、期間プレミアムを減じ、長期債価格の押し上げを狙う。OMTは別にデュアレーションへの超過需要を創り出そうとしているわけではなく、ユーロ離脱のリスクプレミアムを債券価格から無くすことを狙っている。実際、OMTでは、ユーロ離脱のリスクが如実に表れる短期債をむしろ主な対象としている。
なお、仮にQEをユーロ圏で実施しようとすれば、カスタマイズが必要になるだろう。というのは、一般企業の3分の2は外部金融を銀行に頼っており、取引が活発に行われているクレジット市場にアクセスを持たないからだ。

ちなみにmainly macroのサイモン・レン−ルイスは、現在の周縁国における債務調整のスピードは受動的な財政政策をもたらすには速過ぎるし*1、ユーロ圏の財政ルールも必要以上に急速な債務調整をもたらすので、OMTによる厳しい条件は屋上屋を架すもの、と批判している。

また、ECBもご他聞に漏れずゼロ金利下限の問題を抱えている、と指摘した上で、クーレはECBがQEを追求しない理由を説明していない、とも批判し*2、次のような皮肉を投げ掛けている:

It has taken the ECB about two years too long to recognise the need for OMT – let’s hope that it does not take another two before it realises that for monetary policy to stay active in the sense described above, it also needs QE.
(拙訳)
ECBがOMTの必要性を認識するのに2年余計に掛かった。上述の金融政策の能動性を確保するためにQEも必要だということを認識するのにもう2年掛かることのないことを期待しよう。

*1:こちらの共著論文で彼は、そうした調整スピードが速過ぎるのは却って良くない、ということを示したとの由。

*2:10/6追記:ただし上述のように、クーレはデフレ懸念が存在しないことを理由に挙げている。