昨日紹介したクルーガーの講演で、もう一つ面白い一節があった。
One of the dangers of exaggerating the effects of uncertainty is that it could paralyze action. The fact that we live in uncertain times should not prevent us from taking actions to build a better future.
I was reminded of this point in a recent conversation I had with Jeff Bezos, the founder of Amazon. Bezos told me that everyone asks him what’s going to change in the future. That’s an interesting question, he said, and we can speculate about it all day long. But he went on to say that he is rarely asked what’s going to stay the same over the next 10 years, or so. When you think about what’s going to stay the same, he emphasized, you can plan for it and make the appropriate investments. Bezos said that at Amazon he is confident that customers will always want low prices, wide variety and quick delivery. He told me that it is impossible to imagine a day when a customer would say, “Gee, that Amazon was great, but I wish they charged me more and delivered more slowly.” So Amazon plans and invests to meet those demands, for example
by improving delivery systems.
I think this is an insightful way to think about running a company – and a valuable lesson for thinking about the economy as a whole. It’s interesting to use that lens – the lens of certainty – to view the U.S. economy. Yes, a great deal will change and much is uncertain, but what will stay the same?
I have been asking myself that question and have come up with a list of seven significant items that we can be relatively confident that we can count on for the U.S. economy.
(拙訳)
不確実性の悪影響を強調することにより生じる危険の一つは、行動を麻痺させかねないことだ。不確実性の時代に生きているという現実が、我々がより良い未来を築くために行動を起こすことの妨げとなってはならない。
最近アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスと話をした時に、このことを思い出した。ベゾスが言うのには、誰もが今後何が変わるのかを訊いてくる、とのことだ。それは興味深い質問で、一日中そのことについてあれこれ思いを巡らせることができる、と彼は言う。しかし続けて彼は、今後約10年の間に何が変わらないかを訊かれることはほとんど無い、とも言った。何が変わらないかについて考えると、それについて計画が立てられるし、適切な投資を行うことが出来る、と彼は強調した。アマゾンにおいて顧客が常に安さと豊富な品揃えと素早い配送を求めることは確信している、とベゾスは述べた。「うん、アマゾンは素晴らしいが、もっと料金が高くてもっとゆっくり配送してくれれば良いのに」と顧客が言う日が来るなどとは想像できない、と彼は私に言った。だからアマゾンは、例えば配送システムの改善を計画し投資することによって、そうした要求に応えようとするのだ。
これは会社の経営について洞察に満ちた考え方だと思う。そして、経済全体を考えるに当たっても貴重な教訓になっていると思う。そうしたレンズ、即ち確実性のレンズを通して米国経済を見てみるのも面白い。確かにたくさんのことが変化していくだろうし、不確実なことも多いが、変わらないものは何だろう?
私はこの問いを自分に投げ掛け、米国経済について頼みにしても良いと比較的自信が持てる7つの重要な項目のリストを考え付いた。
これは政府による不確実性の問題を声高に唱える保守派への反論を意図した一節だが*1、ここでクルーガーの言う7項目とは以下の通り:
- 米国経済は、製品市場と労働市場の双方で、大規模な自由市場経済を維持し続ける。シュンペーターのいわゆる創造的破壊は米経済の特徴であり続ける。
- 現在抱えている問題にも関わらず、強力で安定した法ならびに経済の制度は健在である。それは時代や環境の変化に適応し続ける。
- 経済の多様性。高校の教科書は、農業から工業へ、工業からサービス産業へ、さらには知識産業へ、というような変遷を経てきたかのように記述しているが、実際のところ、米経済はそれらすべてである。GDPで15%以上を占めている(SIC大分類)産業は存在しない。
- 教育は成功の最も確かな鍵であり、米国は世界最高の高等教育システムを維持し続ける。
- 躍動的なベンチャーキャピタルの共同体に支えられた起業家精神。MBAが米国発なのも偶然では無い。起業家の例:スティーブ・ジョブズ、ジェリー・ヤン、ジェフ・ベゾス、ベラ・ワン、ウォーレン・バフェット、ハワード・シュルツ、ウォルト・ディズニー、ヘンリー・フォード、ベン・フランクリン、オプラ・ウィンフリー
- 経済における高い生産性とイノベーション。
- 機略に富んだ結果志向の人々。問題解決の解を追求するために絶えず自分自身を改革することができる。(cf. 昨日のエントリ)
なお、Mostly Economicsは、こうしたクルーガーの楽観論に水を差すようなことを――自ブログのエントリで紹介した他の経済学者の言説にリンクしながら――書いている。即ち: