エコノミストを名乗るならば信頼区間の意味を理解すべし

とリチャード・グリーンが書いている


それによると、出勤途中の車内でラジオを聞いていたら、エコノミストと称する人物が、11月の雇用の伸びの市場予測が13万人だったのに対し実際には12万人だったので、失望させられる結果だ、と評したとの由。それに対しグリーンは、この「エコノミスト」氏は信頼区間の意味を理解していない、と憤慨している。というのは:

  • 労働統計局は、雇用変化の90%の信頼区間は10万人と発表している
  • 即ち、標準誤差は5.6万人ということ*1
  • 従って、市場予測と実際の差は0.2標準誤差に過ぎない。これは事実上ゼロに近い。


このグリーンのエントリに対し、「Welcome to Free America」の著者でMattress Flippingというブログのブログ主であるデビッド・バーカー*2が、以下の主旨のコメントを残している。

  • 12万人と13万人の差が意味を持つかどうかは、数字の使い方次第。マクロ経済的な観点では確かにその差は無意味だが、株式評価という観点ではそうではない。
  • 標準誤差が如何に大きかろうとも、公表数値が雇用の伸びの期待値であることに変わりは無い。一方、株価は期待利益の割引価値である。もし(オフィスビルの建設会社のように)企業利益が雇用の伸びに連動するならば、年率1.1%の伸びと1.2%の伸びの違いは*3、成長率が8%低下したことを意味する。雇用の伸びの自己相関を考えれば、今後数ヶ月の期待利益も同率だけ低下したと考えても良かろう。
  • その結果として、企業評価が例えば1%下方修正されるということは十分にあり得る。企業価値の1%の低下は、レバレッジを掛けている買い手やオプショントレーダーなど、近々に現金に換えようとしている人にとっては大ごとである。
  • 従って、政策当局者や長期の戦略策定者を相手にしているのではなく、そうした投資家を相手にしているならば、エコノミストを名乗りつつ信頼区間の範囲内の変化を失望させられると表現しても良いのではないか。

*1:ただし、リンク先の労働統計局の説明では「There is about a 90-percent chance, or level of confidence, that an estimate based on a sample will differ by no more than 1.6 standard errors from the "true" population value because of sampling error. BLS analyses are generally conducted at the 90-percent level of confidence. For example, the confidence interval for the monthly change in total nonfarm employment from the establishment survey is on the order of plus or minus 100,000.」と記述されている。実際、Excelで「=NORMINV(0.95,0,1)」と入力すると1.645という数字が得られる。10万を1.645で割ると6.08という数字が得られ、グリーンの5.6という数字よりも大きくなる。

*2:履歴書によると現在はアイオワ大学で不動産や企業ファイナンスを教えつつ不動産会社や農場を経営し、不動産関係のコンサルタントや鑑定人の仕事も行っているとの由。

*3:この表によると10月時点の雇用者数は13158.8万人なので、公表数字は年率で12*12/13158.8*100=1.094%の伸び、市場予測は13*12/13158.8*100=1.186%の伸びということになる。