イタリア対日本とリビジョニスト対円高シンドローム

10日ほど前にクルーグマンが「なぜイタリアと日本の国債の利回りは違うのか?」という問いをブログで投げ掛け、幾人かのブロガーがそれに応えた。
例えばEconospeakのPeter Dormanレベッカ・ワイルダー*1は、経常収支が赤字か黒字かという違いを挙げている。これはごく常識的な回答かと思われるが、三橋貴明氏が指摘するように、それがクルーグマンの求めている答えかどうかは微妙である。クルーグマン・クロスを持ち出すまでもなく、経常収支と貯蓄・投資差額の恒等関係は彼は百も承知のはずだからである*2


一方、昔懐かしリビジョニスト的な見解を示したのがノアピニオン氏である。彼は日本の財務省による金融抑圧、ホームバイアス*3、株式市場の機能不全の3つを理由に挙げ、イタリアの方が通常の金融市場を有しているのではないか、と推測している。


それに対しAndy Harlessが、より経済学的なコメントを寄せている。以下はその拙訳。

そうした要因も重要かもしれないが、結局のところ、自国通貨をコントロールできるか否かが最終的な決め手になると思う。
貴君の主張は、日本の債務が実際のところイタリアと同じくらい(あるいはそれ以上に)危険であるにも関わらず、とにかく日本人が購入している、ということかと思う。しかしホームバイアスは、(日本の高い貯蓄率を考えた場合*4)円の過大評価を招くはずである。もし円が過大評価されているならば、なぜ日本は巨額の経常黒字を計上しているのだろうか?
私は、実際には円は過小評価されているのだと主張したい――ある種の半永久的なオーバーシュートが起きていて*5購買力平価が成立していないことが、政府が立ち行かなくなった時に生じる最終的なインフレのリスクを相殺する役割を果たしているのだと思う(もし日本がソフトランディングするのであれば、円は貿易黒字を解消するように増価すると思われ、その増価期待が、ハードランディングした場合に発生するインフレのリスクを相殺している)。
また、国家債務危機の不在の中、日銀が(おそらく意図せずして)ECBよりかなり低いインフレ目標を追求していると思われることにも注意すべきだろう。ECBにとっての望ましい水準は2%未満である。日銀はインフレ率がプラスに転じると常に引き締めを実施し、インフレ率がマイナスに転じても、その引き締めを相殺するのに十分なだけの積極的な緩和を行わない(多分できないからだろうが)ように見える。従って、実効目標は0%未満である(ここでも、自国通貨を有していることが鍵となる。日本のデフレは利率に反映され得るが、イタリアでデフレが起きても中核国のインフレに吸収されてしまう)。このことは説明すべき467ベーシスポイントのうち約200を説明する。私と貴君が議論すべき残りはたった267というわけだ。

*1:最初Angry Bearに投稿していたが、自ブログに移し替えている。その経緯(というほどでもないが)の説明はこちら

*2:サムナーは、これは非常に難しい問題だ、と述べている。

*3:ミセス・ワタナベ

*4:このHarlessの認識もやや時代がかってような気がするが…。本文でノアピニオン氏は「Japanese net household saving is actually quite low now」と説明しているのだが。

*5:円高シンドローム!?