ロバート・ルーカスは需要不足を認めていないのか?

ロバート・ルーカスの5/19のワシントン大学講演資料が集中砲火を浴びている。
攻撃の口火を切ったのは、5/31のFTブログでのGavyn Daviesの批判。そこでDaviesは以下のように書いている

Yet a shortage of demand is not mentioned, even as a remote possibility, by Prof Lucas. As a convinced classicist, he seems to have ruled this out by a priori conviction, rather than any detailed empirical work. That still remains to be done.
(拙訳)
しかしルーカス教授は、需要不足について万が一の可能性としても言及していない。筋金入りの古典派として、彼は詳細な研究によってではなくアプリオリな確信によりその可能性を除外したものと思われる。そうした詳細な研究は行われていない。


これを受け、クルーグマンイグレシアスデロングリソルツノアピニオン氏が一斉にルーカス、ひいてはシカゴ学派を批判している([2011/6/5追記]EconospeakのProGrowthLiberalも批判的なエントリを書いている;voxwatcherさん経由)。また、Mark ThomaもDaviesの少し前にその講演資料を取り上げ、やはりDaviesと同様の批判を行っている(デロングはこちらのエントリにも反応している)。


一方、マンキューは、ルーカスと常に意見が一致するわけではないが、考えさせられる論考だ、と用心深い書き方でこの件に触れている*1。Stephen Williamsonも基本的にマンキューと同様のことを書いている(ただしそこでかつてのマンキューとBallの論文に対するルーカスの批判――イデオロギー的な見地に走り過ぎているという――をクルーグマンに当てはめ、両者を合わせて撫で斬りにしているのが面白い*2)。


それに対し、明確にルーカスを擁護しているのがサムナーとベックワースである。
サムナー*3

Oddly, Paul Krugman and Matt Yglesias seem to think that Lucas denies that demand shocks cause recessions–which is clearly not Lucas’s view.
(拙訳)
奇妙なことに、ポール・クルーグマンとマット・イグレシアスは、ルーカスが需要ショックによる景気後退を否認していると考えているようだ。それは明らかにルーカスの見解ではない。

ベックワース

Let me add to this discussion by noting that recently I met Robert Lucas at a conference. We started talking and, among other things, he expressed his support for nominal GDP targeting because it would have given the Fed more flexibility in responding to the severe spending shocks. That is, it would have allowed the Fed to have been more aggressive with monetary policy while still being systematic. He was also sympathetic to my view that currently there was too much concern about inflation. At a conference dominated by inflation hawks, I found him to be a refreshing breath of fresh air.
PS. We also talked about his former student Scott Sumner and Sumner's proposal for NGDP futures targeting. He was intrigued by it and compared it to Lars Svensson's work on targeting the forecast.
(拙訳)
(サムナーのエントリを引用した後で)この件に関連して、私は最近ある会議でロバート・ルーカスと会った、ということを付け加えておこう。我々は会話を交わしたが、特筆すべきは、深刻な支出ショックに対するFRBの対応の柔軟性を増すという理由で彼が名目GDP目標への支持を表明したことだ。すなわち、体系性を維持したままでより積極的な金融政策を展開する余地をもたらす、ということだ。また彼は、皆がインフレを心配し過ぎだという私の見解にも共感してくれた。インフレタカ派が牛耳っていた会議で、彼は元気付けられる新鮮な空気のような存在だった。
追伸:我々はまた、彼の以前の教え子のスコット・サムナーとサムナーの名目GDP先物目標提案についても話した。彼はそれに興味をそそられ、ラース・スヴェンソンの予測目標に関する研究と比較した。

*1:[2011/6/5追記]ただし、これまでの欧州に比べた米国の経済成長のパフォーマンスの高さの強調と、オバマ政権の政策による米国の欧州化への懸念、という点で、ルーカスの今回の資料の主張は、ここで紹介したマンキューの意見と共通しているように見える。

*2:さらにコメント欄でルーカス批判を展開したノアピニオン氏に対し、ブログをやめて学位論文を書きなさい、と応じているのも面白い(ノアピニオン氏は「Yes sir!」と応じている)。

*3:[2011/6/5追記]サムナーの該当コメントの全訳はvoxwatcherさん参照。