コアインフレ率の総合インフレ率に対する予測力

がエコノブロゴスフィアでひとしきり話題になった。


きっかけは、コアインフレ批判を展開したブラードのお膝元のセントルイス連銀で、その総裁の講演に呼応するかのようなレポートが出されたことにある*1。そのレポートでは、コアインフレ率の総合インフレ率(ヘッドラインインフレ率)に対する予測力は特に優れてはいない、と報告している。


ところが、同じ地区連銀のアトランタ連銀のMacroblogがその報告に噛み付いた。そこでは以下の図が示されている。


グラフの右端の陰影の付いた四角で囲まれた部分が、セントルイス連銀の報告に相当する。即ち、過去36ヶ月のインフレ率で今後36ヶ月の総合インフレ率を予測しようとした場合、コアインフレ率の予測誤差は総合インフレ率のそれと大差無い。しかし、予測に使用する過去の期間を短くしていくと、コアインフレ率と総合インフレ率の予測誤差の差は拡大していく。直近月のインフレ率だけを用いた場合には、コアインフレ率の総合インフレ率に対する予測誤差が1.4%なのに対し、総合インフレ率の自分自身に対する予測誤差は2.7%と倍近くになる。


クルーグマンが早速このグラフに目を付け、ECBのロレンツォ・ビニ・スマギ(Lorenzo Bini Smaghi)専務理事に対する批判に援用した。こちらの日本語記事によると、スマギはFT寄稿記事でコアインフレ率の廃止を訴えたという。


一方Nick Roweは、そもそも何らかの経済変数がインフレ率に対する予測力を持つのは中央銀行の政策が失敗した場合、というかねてからの持説展開しセントルイス連銀のレポートとMacroblogをまとめて批判している*2

*1:日付は5/9となっており、ブラードのNYU講演の9日前。

*2:なお、前述のブラードは、インフレの決まるメカニズムをモデルとして定式化すること無しに、単変数でインフレ率を予測しようとする試みにそもそも否定的である。ブラードはそのメカニズムに関わる要因として、期待インフレ率や実体経済の動向やインフレ目標などの金融政策を挙げているが、そのうちインフレ目標だけがインフレ率の決定要因となる――金融政策が成功している場合には――というのがRoweの立場ということになる。