デフレ政策の勝利?

エコノミスト誌が、ラトビアの経済政策は取りあえず成功し、ギリシャよりましな状態にある、と書いたのに対しクルーグマン失笑している


ラトビアについては、以前、拙ブログでも取り上げたが、通貨切り下げを拒み、その代わりに国内物価を下げるデフレ政策で難局を乗り切ろうとしている。クルーグマンはそれをアルゼンチン危機に喩え、小生は昭和恐慌時の井上準之助に喩えた。


エコノミスト誌によれば、GDPは昨年17.5%落ち込み、失業率も22.8%に達したが、通貨切り下げをしないまま経常黒字を回復し(2006年末のGDP比27%の経常赤字だったのが、2009年は9.3%の経常黒字になる見込み)、国債ドイツ国債とのスプレッドも縮小してギリシャより小さくなったとのことだ。S&P社も格付けを「negative」から「stable」に変更したという。


これに対し、クルーグマン、およびクルーグマンがリンクしたEdward Hughが同記事の問題点として指摘しているのは、GDPと失業率のそれだけの大幅な悪化を軽視していることのほか、そもそもデフレ政策が本格化するのはこれからではないか、という点である。
Hughによると、ラトビアの賃金は確かに2008年9月から2009年9月まで10%下落したが、2007年9月から2008年9月までは6.5%上昇しており、通算すると2年間の下落率は4.15%に過ぎない。また、国際比較で問題になる時間当たり労働コストでは、四半期ベースで前年比マイナスになったのは2009年第3四半期になってからであり、それもマイナス3.5%に過ぎない。
また、物価を見ても、消費者物価指数の前年比下落率は昨年9月頃にマイナスに転じ、今年の1月に漸く-3.3%に達したに過ぎない(ただし生産者物価指数はそれより早くマイナスに転じており、マイナス幅も大きい[今年1月は-6.6%])。
確かにラトビア経済は底を打ったのかもしれないが、名目為替の減価抜きで成長を取り戻し失業を減らすには、さらなるデフレが必要になる、というのがHughの見立てである。


ちなみにクルーグマンは、現在のラトビアの状況を、今度は大恐慌下で金解禁が他国より遅れたフランスに準えている。比喩の対象の時代背景という点では小生に近づいたわけだ。