中国の高齢化と富裕化はどちらが早いか?

ディーン・ベーカーが、中国に関するWaPo記事攻撃している


ベーカーが槍玉に上げたのは、記事の以下の一節。

Projections of China's economic growth seem to shortchange the country's looming demographic crisis: It is going to be the first nation in the world to grow old before it gets rich. By the middle of this century the percentage of its population above age 60 will be higher than in the United States, and more than 100 million Chinese will be older than 80. China also faces serious water shortages that could hurt enterprises from wheat farms to power plants to microchip manufacturers.
(拙訳)
中国の経済成長の見通しは、来るべき人口動態の危機を過小評価しているように思われる。中国は富裕化する前に高齢化する最初の国になるだろう。今世紀半ばまでに、60歳以上が人口に占める比率は米国を上回り、1億人以上の中国人が80歳以上となる。中国はまた深刻な水不足に直面しており、そのことは、小麦農場からマイクロチップ製造業者に至る事業に困難をもたらすものとなっている。


これに対する反論として、ベーカーは以下のような試算を示す。

  • 過去10年間は出来過ぎだとして、今後30年間は5.0%で成長するものとしよう。すると、一人当たりGDPは4.3倍になる。
  • 賃金の伸びも一人当たりGDPに連動するものとする。30年後、退職者一人を労働者二人で支える状況になっているものとしよう(米国は2030年頃にそうなる)。もし退職者を支えるために30%の税金が課せられるとしても、税引き後でも今日の3倍以上の賃金を享受することになる。その場合、退職者も今日の賃金の2.5倍以上に相当する給付を受け取ることになる。これは人口動態の危機と呼べるのか?


しかし、30年間の5%の成長の継続というのは結構高いハードルという気もする。また、このベーカーの大まかな試算を前提としても、反論としては不十分なのは明らかだろう。現在の中国の一人当たりGDP先進国の1/5〜1/4の水準なので、4.3倍になったとしても、現在の先進国の水準(=その将来時点から見れば30年前の先進国の水準)に追いつくか追いつかないか、といったところである。そこから高齢化の負担ために3割減となれば、現在の中進国程度の水準まで落ちてしまう。危機と呼ぶかどうかは別にして、人口動態が重しとして働くのは間違いない。


また、「中国 高齢化」でぐぐってみても、WaPo記事と同様の警鐘を鳴らす記事が(中国人自身の手になるものも含め)散見される*1


どうもベーカーもWaPo憎しのあまり、最近では粗雑な攻撃が目立つのが気になるところである。たとえばここでは、日本の高齢化による人口減少を取り上げたWaPo記事に対し、混雑も環境汚染も少なくなって結構なこと、という反論をしているが、果たしてその反論に納得する日本人がどれだけいるだろうか…*2

*1:ここなどで紹介されているが、CSIS戦略国際問題研究所中嶋圭介さんが共著で書かれた英文レポートもある。

*2:cf. 以前書いたエントリと、それを元にしたWCIブログへの小生のコメント