一昨日、所得格差が経済成長の継続期間を短くするというIMFの研究を紹介したが、Interfluidityのスティーブ・ワルドマンが、まさにそういったモデルを構築して昨年の1/23エントリで紹介していた(ワルドマンがMMT=新貨幣国定主義を論じた直近のエントリ経由)。
以下がそのモデルから導き出された図で、上の図が所与の資産の分布を示し、下の図が各分布に対応する経済成長の過程を示している。上図と下図では、同じ色の線が対応関係にある。例えば、上図で赤色の線は水平線となっているが、これは所与の資産が均等に分布していることを示し、対応する下図の赤色の線は最も早く経済の上限まで成長している。一方、紫色の線は最も不平等度が高く、経済成長が最も遅い。
なお、ここでは経済成長の上限に達するとそのままゼロ成長に転じてしまうが、これは技術進歩率をゼロと置いているためである。仮に技術進歩をモデルに取り込むと、以下のようになる。
このモデルで資産の不平等度が高いほど成長が遅くなる理由は単純で、貧しい人は資産をすべて実物投資に回すが、ある程度資産に余裕ができると、一部を金融資産に回すようになるからである。ここで金融資産としては貨幣のみを仮定しており、しかも、その貨幣は金利がゼロであるばかりか、貨幣と交換された実物資産は海に捨てられてしまうことが仮定されている。つまり、このモデルでの金融資産は極めて非効率なものなのである。そのため、金融資産の比率が増えると経済成長はその分遅れを取る。それにも関わらず人々が資産の一部を金融資産に振り向けるのは、このモデルでの実物投資にリスクが存在し、しかもそのリスクが分散化不可能であることが仮定されているからである。即ち、その仮定では、各人の実物投資はそれぞれに独立であり、かつ、他人の実物投資に投資することはできない。一方、資産と金融資産の交換比率(=物価)は一定なので、保険のためにそちらに資産を回す誘因が生じる。
このモデルでは、時間が経過するに連れて実物資産と金融資産の構成が以下のように推移していく(技術進歩率は再びゼロを仮定)。
ここで時間軸と点線の間の領域が実物資産、点線と実線の間の領域が金融資産である。資産の不平等度が高いほど金融資産が早い時期に出現し、その無駄な金融資産により経済成長が足枷を嵌められて遅れを取ることになる。また、実物資産には上限があるが、金融資産には上限が無い。従って、十分に時間が経てば、金融資産が実物資産よりも量的に圧倒的に大きくなる。
ワルドマンはこのモデルを基に幾つか考察を行っている。例えば:
- 各人の実物投資が独立という仮定を外すと、システマティックリスクが発生する。すると、全体として実物投資の損失が利得より大きい期間が生じてしまう。その時、人々が金融資産の保険としての機能を行使して実物資産を引き出そうとしてもできないことになり、金融資産には何ら裏付けが無いことがその時点で明らかになる。つまり、バーニー・マドフの破綻と同じ状況が生じることになる。ただし、金融資産に保険価値があることを人々が信じ続けてくれれば、その価値の実物資産に比べた低下、即ちインフレが起きるだけで済む。そのインフレは、金融資産への流入が流出と再び均衡する水準まで続く。
- 金融資産と交換された実物資産が単に海に投げ捨てられるのではなく、貧しい人に回される(移転もしくは貸付)のであれば、経済成長が促進され、パレート改善的となる。
なお、エントリでは数式は一切用いられておらず、モデルは言葉で説明されているだけである。そのため、直近のエントリでワルドマンは、経済学者が理解できるように数式を書き下ろさなくてはいけないか、と漏らしている(ちなみにこのモデルが言及されたのは、NPG条件を巡るNick Roweとの論争という文脈においてである)。