フィナンシャルタイムズが読めるようになるためのマクロ経済学課程

今のマクロ経済学の教科書を読んだりマクロ経済学の課程を履修しても、現下の不況についてフィナンシャルタイムズが報道している記事や、その紙面上で交わされている議論を理解することはできない、と先月12日にデロングが書いている(H/T Interfluidity)。

それらを理解するためには、不況を説明するのに現在も有効な以下の5つの理論を教える必要がある、とデロングは言う。

  1. 実質賃金が完全雇用経済を維持するには高過ぎる水準に留まっているため、失業率が高くなるのだ、という理論。従って、不況は耐え忍ぶべきもの、ということになる。
     
  2. 今日の高失業率は過去の過剰投資の避けられない帰結である、という理論。従って、不況は耐え忍ぶべきもの、ということになる。
     
  3. 流動性を持つ現金の不足のために不況が生じた、というマネタリスト理論。流動性不足は人々を現金残高の確保に駆り立て、現時点での財やサービスへの支出を差し控えさせる。従って、貨幣供給の拡大や貨幣の流通速度の上昇によって貨幣需要を減退させることが解決策となる。
     
  4. 債券の不足のために不況が生じた、というケインジアン――あるいはヴィクセリアン?――もしくはヒックシアン?――理論。債券は人々の購買力を未来に転送する貯蓄ツールであるため、その不足は人々を資産形成に駆り立て、現時点での財やサービスへの支出を差し控えさせる。従って、債券の供給拡大や貯蓄の減少が解決策となる。
     
  5. 過剰投機に起因するパニックがもたらした高品質の安全資産の不足のために不況が生じた、というミンスキー理論。そうした安全資産は目を離した隙に価値が無くなってしまう恐れが無いので、人々が自分の富を蓄える対象として欲する。その不足は人々をそれらの資産の確保に駆り立て、現時点での財やサービスへの支出を差し控えさせる。従って、安全資産の供給拡大や信頼の回復によって安全性への需要を減退させることが解決策となる。


これら5つの理論のいずれも、時と場合によっては正しいことがあるので、共感を持って教えられねばならない――もちろん批判的視点も必要ではあるが――とデロングは言う。そのためには、歴史的流れと関連付けて教えるのが良い、と彼は主張する。即ち、賢い人々が変化しつつある混乱した世界を理解しようと努めた思想の長期に亘る伝統として捉えるのが良い、とのことである。具体的には、

  • ミンスキー理論は、ウォルター・バジョットによる19世紀の金融危機の理解に根差すものとして(あるいはアダム・スミスにまで遡るものとして)
  • ケインズ理論は、クヌート・ヴィクセルの資金の流れの擾乱に関する研究に根差すものとして
  • マネタリズムは、ジョン・スチュアート・ミルが1825年の英国における初の工業不況を理解しようとした試みに根差すものとして
  • 過剰投資理論は、マルクスの1848年の危機の理解の努力に根差すものとして
  • 高実質賃金理論は、Nassau Senior1850年以前のミッドランド地方における技術に起因する失業の調査に根差すものとして
  • そして、いずれの理論もジャン=バティスト・セイとトーマス・ロバート・マルサスによって最初に提起された一連の問題への取り組みとして

把握すべき、とのことである。