サミュエルソンの8つの功績

クルーグマン12/15ブログエントリで、サミュエルソンの経済学への主要な功績として8つの業績を挙げた。以下に同エントリのその8つの業績の紹介部分を訳してみる。

  1. 顕示選好理論
    • 1930年代、経済学者は、消費者の選択に作用する要因は限界効用逓減にとどまらないことを認識し、消費理論に革命が起きた。しかし、人々がある物を選択する場合、買えるにも関わらず選択しなかった別のある物よりそちらを選好している、という単純な命題から、いかに多くのことが演繹できるかを教えてくれたのはサミュエルソンだった。
       
  2. 厚生経済学
    • ある経済状態が別の経済状態より良いというのはどういうことか? サミュエルソン以前、このことは、所得分配をどうすべきかという話と共に曖昧な概念に留まっていた。サミュエルソンは、倫理的な第三者による再分配という概念を使うことによって社会厚生の概念を理解する方法を示した。それは同時に、現実世界でのその概念の限界を教えるものであった。現実世界では、そうした第三者は存在しないし、再分配はそれほど行なわれないので。
       
  3. 貿易の利得
    • 国際貿易の利益とはどういうことを意味するのか? その命題の限界は何か? そうした問題への取り組みの出発点は、貿易の利得に関するサミュエルソンの分析であり、その分析は顕示選好と厚生分析の両者に基礎を置いていた。バグワティ=ジョンソンの市場の歪みの分析から、ディアドルフの一般化された比較優位の概念に至るまで、すべてはその洞察に基づいている。
       
  4. 公共財
    • なぜある種の財・サービスは政府により提供されねばならないのか? 民間市場に適した財は全体の一部に過ぎないが、それを決めるのは何か? それらはすべてサミュエルソンの1954年の 「公共支出の純粋理論」に遡る。
       
  5. 生産要素賦存貿易理論
    • 資源や比較優位、貿易の所得配分への影響について語るたび、我々はサミュエルソンの1940年代と1950年代の仕事に立ち戻ることになる。彼はオリーンとヘクシャーの曖昧かつ混乱したアイディアを取り上げ、明快なモデルを作り上げた。そのモデルはその後数十年間ほとんどの貿易理論を規定し、今なお統合モデルの主要部分であり続けている。
       
  6. 為替相場と国際収支
    • 少し個人的な話をしよう。国際貿易の分野で仕事をしている人の多くは、議論が為替相場と国際収支に及ぶと、筋道の通らないことを言い始める。私が時々言うのは、貿易理論の人は国際マクロ経済学をブードゥーと見なし、国際マクロ経済学の人は貿易理論を退屈で現実離れしていると見なす、ということである(そして嫌味を言いたい気分の時には、両者とも正しい、と付け加える)。しかし、1977年のドーンブッシュ、フィッシャー、そしてサミュエルソンリカード貿易論を扱った論文*1を読んだ時、私はこれらの陥穽すべてから救われた。その論文では、いろいろある中でも特に、貿易とマクロ経済、為替相場と国際収支、貿易による利得の可能性と失業の可能性、といったことが如何に組み合わさっているかを示していた。
    • 後で知ったのだが、サミュエルソンはそういった問題をずっと前に把握していた――ただ、3人で丁寧に作り上げたモデルが、その内容を世に広めるのに力があったことには疑いないが。1964年のサミュエルソンの論文「貿易問題に関する理論的覚書(Theoretical notes on trade problems)」では、次のように書かれている:「雇用が完全雇用に達せず、国民純生産が最適値に達していない場合、葬り去られたはずの重商主義的議論が有効になる」 その上で彼は、「過剰な通貨高によってもたらされる自由貿易擁護論者にとっての真の問題を指摘」した直近版の彼の教科書の付録に言及している。解決策は、もちろん、貿易を制限することではなく、過剰な通貨高を終わらせることである。サミュエルソンは、良いマクロ経済政策が良いミクロ経済政策の必須条件であることを理解していた。それについてはすぐ後で触れる*2
       
  7. 世代重複モデル
    • サミュエルソンの1958年の貸し借りに関する世代重複モデルは、社会保障から家計の負債に至るまで、すべてのことを考える基礎の枠組みである。それなしのマクロ経済学など考えられない。
       
  8. ランダムウォーク理論

*1:多分これ

*2:エントリの最後の方でクルーグマンは、サミュエルソン新古典派総合(ただしthe neo-classical synthesisではなくthe Keynesian synthesisと記述)という考えを称揚している。