ドクター・ハウスとかつての弟子との論争

ノアピニオン氏が、かつてのマクロ経済学の「先生」であるChris Houseとマクロ経済学の意義について論争を繰り広げている。ノアピニオン氏がThe Week誌マクロ経済学は経済学の中で最弱と腐したのに対し、Houseがむしろ最強に近い、と自ブログエントリで反論した。それに対しノアピニオン氏が、Houseの挙げた4点について再反論している。以下はその概略(箇条書きの主項がHouseの主張、副項がノアピニオン氏の反論)。

  1. マクロ経済学は常にモデルとデータを突き合わせている。経済学の他の分野の中には、そもそも検証するに足る理論が存在せずに実証研究に終始しているものも少なくない。また逆に、理論研究に終始して、データによる検証をほとんど行っていない分野もある。
    • 理論抜きに実証研究に終始することのどこが悪いか分からない。
    • 棄却されたモデルの行方は?(それについては後の方でHouseは部分的な回答を出しているが…)
    • マクロ経済学で良く使われているモーメントマッチング法はデータによる検証としてはハードルが最も低いので、データと常に突き合わせているというのは言い過ぎ。
    • 理論研究に終始というのは純粋ゲーム理論を指しているのだと思うが、純粋ゲーム理論は実際のところ数学の一分野であって実証科学ではないので、検証の必要は無い。一方、応用ゲーム理論は継続的にデータによる検証が行われており、各種産業に応用されている。また、純粋ゲーム理論以外には理論とデータの突き合わせが行われていない経済学分野は存在しないはず。

  2. マクロ経済学では理論を常に定量化しようとしている。即ち、モデルに意味のあるパラメータ値を付与しようとしている。これは他の経済学分野ではあまり見られない試み。
    • データによって棄却された理論に、きちんと定量化されたパラメータ値を与えることにどんな意味があるのか? 正確さを伴わない精確さの意味とは?

  3. モデルがうまくいかない時(最終的には常にうまくいかなくなるが)、マクロ経済学者はモデルを単に捨て去るのではなく、失敗の性格を浮き彫りにしようとする。マクロ経済学には数多くのパズル(過剰感応性パズル、リスクフリーレートパズル、株式プレミアムパズル、国際連動性パズル、等々)が存在する。そうした数多のパズルの存在は、一見、この分野が混乱状態にあることを示しているように思われるかもしれないが、実際には、そうした理論とデータの齟齬は、理論の修正の方向を指し示す重要な指針となる。
    • 現実にそぐわない理論はいくらでも作れる。パズルがどんどん積み重なっていく時、本当のパズルはどうしてその状態がいつまでも続くのか、ということになるのではないか。
    • 株式プレミアムパズルが多くのファイナンス関係の研究者を惹き付け、興味深い研究や重要な考察につながったことは認める。

  4. マクロ経済学者は分析技術が高く、歴史や制度など経済学の他分野にも平均的な経済学者より精通している。

この後ノアピニオン氏は、マクロ経済学者自身が自分と同様の見解を出した例として、カバレロを挙げている(cf. 本ブログのこのエントリ)。