リフレ政策は核爆弾?

Nick Rowe自分のブログエントリのコメントで面白いことを書いている。これは、"Don the libertarian Democrat"氏がその前のコメントで書いた
「リフレ政策の同工異曲の提言はあちこちのブログで見るが、なぜ一向に実施されないのだ? FRBは何を恐れているのだ?」
という質問への“回答”である。

Don: that's a good question. I don't really have the answer. Here are some part answers:

It has been tried to some extent. The Fed's balance sheet is much bigger. The BoC bought mortgages, and lent against weird colateral. See my last post on "what next for the BoC".

It is difficult to know how to make a credible commitment for future monetary policy. How do you set the printing presses running, and disable the "reverse switch"? Especially when people know you might want/need to use the reverse switch if inflation gets too high.

Nobody has a clue about how big the policy would need to be. How would we know when we've overdone it? Sumner's posts have been helpful here: his answer is to look at private forecasts, or market forecasts, for nominal GDP (or CPI). But then there was that paper (by Bernanke? Blanchard? somebody beginning with B) saying you can't target a forecast without disappearing up your own orifice. (Sort of self-referential paradox).

Fear of central bank balance sheet losses. (I think they are overblown, and might actually be good for credibility, as in my "betting" post.

Fear of "instrument instability". We keep slowly moving the policy lever, more, more, more, and then suddenly it's effective, too effective, help! We're heading into hyperinflation! reverse the levers fast! Damn, too much!

Fear of the unknown. Orthodox monetary policy is an M16, but it's run out of ammo. Fiscal policy is Grandfather's musket. Unorthodox monetary policy is a nuke. Nobody knows the critical mass, or how big the bang will be.

(拙訳)ドン、それは良い質問だ。僕にはその答えは本当に分からない。以下はいくつかの部分的な回答:

  • それはある程度は試された。FRBのバランスシートは大きく膨らんだ。カナダ銀行モーゲージを購入し、普通でない担保を対象に貸出を実施した。僕のこのエントリを見てくれ。
  • どうやって将来の金融政策について信頼できる約束をするかは難しい。どうやって紙幣の輪転機を回して、かつ「逆回転スイッチ」を無効化するか? 特に、人々が、インフレが高くなりすぎれば中央銀行がその逆回転スイッチを押したくなる、ないし押す必要に迫られると分かっているときに?
  • 誰も政策規模をどこまで膨らませるべきか分からない。やりすぎたとしても、どうやればそれが分かる? サムナーは一つの提案をしている:名目GDP(もしくはCPI)についての民間の予測や市場の予測を見ろ、というものだ。しかし、予測を目標にすれば必ず独り善がりに陥るという論文(バーナンキだったかブランシャールだったか、Bで始まる著者だった)があったはずだ(自己言及のパラドックスの一種)。
  • 中央銀行のバランスシートの損失への恐れ(それは過大評価されていると思うし、「賭け」エントリ(cf.Hicksianさんの紹介)に書いたように、信頼性という点ではむしろ好都合だとも思うが)。
  • 「手段の不安定性」への恐れ。少しずつ政策のレバーを動かす、もう少し、もう少し、もう少し。そして突然それが効き始め、しかも効き過ぎてしまう。助けて! ハイパーインフレーションになっちゃうよ! レバーを早く戻して! しまった、戻し過ぎた!
  • 未知への恐れ。通常の金融政策はM16だが、弾が尽きた。財政政策はお爺ちゃんのマスケット銃だ。非伝統的な金融政策は核爆弾だ。誰も臨界質量を知らないし、爆発がどのくらいの規模になるかも知らない。


非伝統的な金融政策を核爆弾に喩えたのは面白い。池田信夫氏は以下のように書いて、リフレ政策は何ももたらさないか、ハイパーインフレをもたらすかのどちらかだ、と主張しているが、その考えに一脈通じる喩えである。

中央銀行がインフレ予想を連続に変化させることができると仮定すれば、望ましいインフレ率になったところで通貨供給の増加を止めればよい。しかし実際にはそうは行かない。図(引用者注:戦間期のドイツ、および近年のユーゴスラビアジンバブエハイパーインフレに至るインフレ率が並べて描かれている)のように、最初はせいぜい数倍ぐらいのインフレが、数年で天文学的に上昇する。

他方アメリカでは、FRBのバランスシートが2倍以上にふくらんでも、デフレが止まらない。両者の違いは、金融政策ではなく財政政策にある。ジンバブエでは、ムガベ政権が紙幣を無限に印刷して財政をまかなうことを人々が予想するので、急いで貨幣を実物資産に換えようとし、それによるインフレを予想して売り手は価格を引き上げる・・・という正のフィードバックが生じているが、米政府がそういう財政政策をとる可能性はゼロなので、人々はインフレを予想しない。

つまり資金需給で決まる普通のインフレと、インフレ予想で決まるハイパーインフレは別の現象で、財政政策によって決まる複数均衡になっているのだ。したがってデフレ状況で、その中間のマイルドなインフレを人為的に起こすことはできない。たとえば日銀が「4%のインフレを15年間続ける」と宣言しても、実際にインフレが起こったらマネタリーベースを絞ってインフレを止めるだろう。企業はそれを(合理的に)予想するので、いくら通貨が供給されても市中に流通するマネーストックは増えない。人為的インフレ政策は、subgame perfectな戦略ではないのだ。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/36b4bf537509d482641839f4cb63f68a


核爆弾を封印するとなると、Roweの言う小銃に頼るほかはないだろう。M16といえばゴルゴ13の愛用の銃だが、弾が尽きてしまっては如何な名銃といえどもどうしようもない。ゴルゴならばマスケット銃でも目的を果たせるだろうが、果たしてオバマや麻生はどうだろうか…。